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『ダークナイト』のVFX: クリストファー・ノーラン監督は「CG嫌い」ではない

2019年9月28日フジテレビ系の土曜プレミアムで『ダークナイト』のテレビ朝日版吹き替えが放送された。
クリストファー・ノーラン監督はCG嫌い。『ダークナイト』は特撮で撮影された。CGを使っていない。だから素晴らしい」などの感想や主張が以前から散見される。それは誤解だろう。
今作の特殊効果(SFX)と視覚効果(VFX)について書こうと思う。

 

 

 

 

クリストファー・ノーラン監督の方針

クリストファー・ノーラン監督とチームにとって、他に方法がない限り、CGよりpractical effectsを使うことが大事だった。
「コストは同じ位だが見栄えが違う」とプロダクションデザイナーのネイサン・クロウリーは説明する。
「コンピューター上で作り出されアニメーションをつけられたものと、実際に撮影されたものと、観客は見分けられると、とても強く感じている」とクリストファー・ノーラン監督は語るが、CGIを完全に嫌っているわけではない。
「通常この種の映画には1000から2000ショットのエフェクトが使われている。『ダークナイト』には650のVFXショットを使った。多くは単純なリグ消去か、コストや安全性の理由からSFXでは撮影できないものだ」とクリストファー・ノーラン監督は説明する。

 

ダークナイトVFX

Double Negative (DNeg)が『ダークナイト』のメインVFX制作会社で、チェイスシークエンスの大部分を担当した。
DNEGは実写撮影のアクションショットを滑らかに拡張し、重要でドラマティックな場面を作り上げた。IMAXのフル解像度(アスペクト比1.33:1)で。一般的なVFXの作業だが多種多様にわたる。リグ消去、背景のクリーンアップ、グリーンスクリーンショットの挿入など。しかし2つの大きな挑戦は、地下フリーウェイでのバットモービルの死とバットポッドの誕生シークエンス、そしてチェイス終盤のラサール・ストリート(LaSalle Street)での完全デジタルショットだった。

当初バットモービルの破壊は実際の車で撮影したものの、話を語るための演出に必要な構図が得られないと判明したので、バットモービルバットポッドと周辺の風景をすべてCGIで描いた。
シークエンスの最後の要素はエンバイロンメント(風景)自体だった。地下フリーウェイの場面の大部分はシカゴのLower Wacker Driveで撮影したが、破壊など重要な場面はイギリス・カーディントンの巨大サウンドステージで撮影した。ほぼそっくりだが2つのセットは重要な違いがあるので、それぞれのセットの差を埋めるために両方の特徴を組み込んだデジタルモデルを作った。

DNEGは『バットマン ビギンズ』でゴッサム・シティの風景・遠景を描いていたが、『ダークナイト』ではクオリティーを上げるためアセットすべての改修が行われた。ジオメトリーのクリーンアップや、テクスチャーの再ペイントなど。

バットマン ビギンズ』ではデジタル建築物は主にワイドショットや超遠景で使われたが、『ダークナイト』では建物のクロースアップショットの割合がとても増えた。だからヘリコプター墜落シーンやバットポッドとトラックのチェイスシーンでは超高品質のCG建造物が使われた。

Framestoreはハービー・デントの顔を120ショット制作した。アーロン・エッカートは顔にモーションキャプチャー用のマーカーをつけて演じ、3台のHDカメラで撮影しフェイシャルキャプチャーのデータをとった。特殊メイクはライティング(照明)の光源のリファレンスに使われた。キャラクターをよりドラマティックに見せるため、Framestoreは骨・筋肉・関節の位置を変更した。

またFramestoreは、バットマンとハービー・デントのショットを、爆発炎上している建物のショットにコンポジット(デジタル合成)した。

 

 

SFXとVFX制作会社・スタッフのクレジット

Double Negative (DNEG) (visual effects) (as Double Negative Ltd.)
Framestore (visual effects)
BUF (visual effects) (as BUF Compagnie)
Cinesite (visual effects) (as Cinesite {Europe} Limited)
New Deal Studios (miniature effects and photography) (as New Deal Studios, Inc.)
Nviz (previsualization)
Blind (computer graphics and animation)
The Visual Effects Company (motion control) (uncredited)

www.imdb.com

スタッフ一覧のVisual Effects byの項目を見れば、VFX制作に参加した人の多さがわかる。

www.imdb.com

 

 

まとめ

CG嫌いの人は、特撮はどうやって撮影したか考えるのが楽しいと言う一方で、CGは何でも(簡単に)できるからつまらないと言う。それはCGの知識がないからだろう。VFXもSFXとは違う意味で大勢の人の手間と時間とお金がかかっている。大作映画ならなおさらだ。
CG嫌いの人は、クリストファー・ノーラン監督がフィルム撮影にこだわり実写でできること(practical effects)を好むことをもって、まるで同志であるかのように語るがそれは違うと思う。

 

 

参照
Inside 'The Dark Knight' - "The Dark Knight" Stunts & Special Effects
Dark Knight: Imax, Effects and That Bike
The Dark Knight (film) - Wikipedia
 

www.rm.is.ritsumei.ac.jp