映画の後には紅茶とお菓子を

百合とアニメと映画の感想

アニメの脚本は放送前には完成している

 

シリーズ構成と脚本

アニメの脚本は放送開始前には完成している。脚本はアニメに限らず映画やテレビドラマや演劇などの最初の工程。

監督、プロデューサー、シリーズ構成(チーフライター)でまずシリーズ構成案を考える。構成が決まったら、各話脚本家に発注する。全体のストーリーがきっちり決まっている作品の場合は、各話脚本家が自由に書く余地はあまりないと考えていい。原作ものなら、近年は原作に忠実に制作しているので、構成にそって原作の指定範囲から描写や台詞を取捨選択して、時には膨らませて書く。メディアの違いに合わせて変えるのは当たり前だけれど。おおむね毎週、監督、製作委員会幹事会社プロデューサー、制作会社プロデューサー、シリーズ構成(チーフライター)、各話脚本家、原作側(原作者や担当編集者)、制作デスク、設定制作たちが集まって本読み(脚本会議)を開く。毎回、数話分の脚本が議題にかけられ、出席者から意見やダメ出しがなされる。脚本第一稿が一発でOKになることはない。何度も稿を重ねてようやく決定稿になる。決定稿になるまで毎回本読みにかけられる。なかなかOKが出なければその分制作スケジュールに影響が出る。

最近では特にキャラクターデザインと脚本と絵コンテは原作者チェックや製作委員会のチェックが入る。承認されたキャラクター設定画、脚本、絵コンテから、現場の判断で勝手に大きく変えることはできない。監督が絵コンテを切るときに脚本から大幅に話を変えてしまう、というのは昔の話。

各話の脚本が決定稿になってから監督や各話演出家は絵コンテを切る。また脚本から制作に必要な設定資料を起こす。

脚本の後には多くの作業工程が待っている。『SHIROBAKO』を観るだけでもイメージをつかめるでしょ。

shirobako-anime.com

ちなみにアフレコ台本は絵コンテから書き起こす。脚本から直接起こすことはない。絵コンテの段階で、声優がお芝居をするための情報が揃うからだ。

 

 

脚本と絵コンテ

脚本は柱書き、ト書き、台詞で構成される。英語だとslug line, action, and dialogue。ト書きにはカメラワークやキャラクターのお芝居などを細かく書かない。詳細を書き込んで、映像演出を縛ることはしない。監督や演出家の領分とされているからだ。

脚本はストーリーを文章で書いたものに過ぎない。特にアニメでは絵コンテが重視される。外国のanimationではstoryboardsやそれをつなぎ合わせて音声をつけて映像にしたanimaticsがアニメーション制作の基礎になる。実写映画でもCGIを多用する作品は、視覚効果のイメージをスタッフやキャストで共有するためにprevizを制作する。

映像作品としての良し悪しは絵コンテで決まると言っても過言ではない(物語の良し悪しは脚本でおおむね決まるけれど)。絵コンテがアニメの設計図と言われるゆえんだ。

 

 

制作

『おちこぼれフルーツタルト』(2020年10月-12月放送)の川口敬一郎監督がインタビューで本読み(脚本会議)の時期に言及していた。

シナリオ会議にはほぼ毎回来てくださっているので、ガッツリと一緒に作ってきた感覚があります。とはいえ、最終話のシナリオを脱稿したのは一昨年で、直近でお会いしたのはコロナ禍になる前の頭数話のアフレコです。


秋アニメ『おちフル』川口敬一郎監督 インタビュー/手描きのこだわりとは? | アニメイトタイムズ

原作者の浜弓場双さんが本読みに参加していたという話だが、注目すべき点は最終話の脚本は2年前に完成していたこと。

2020年はアニメの制作スケジュールが大幅に遅れ、放送時期や映画公開時期がずれた作品が多かった。『おちフル』も2020年7月放送開始予定だった。そのことを考慮しても、一般論として、放送開始よりだいぶ前には脚本は完成していると考えられる。

2021年7月31日追記:スーパーカブ』(2021年4月-6月放送)では、藤井俊郎監督はシリーズ構成の根元歳三さんと、本読みを行っていた当時に放送されていたNHKの朝ドラ『ひよっこ』のイメージを共有したそうだ。『スーパーカブ』の脚本開発は2017年4月-9月前後を含んでいる。つまり放送の3年以上前には既にシリーズ構成と脚本執筆に着手していた。

2023年3月24日追記:『もういっぽん!』(2023年1月-3月放送)のシリーズ構成・全話脚本を担当した皐月彩さんは、原作第8巻が2020年7月8日に発売された時期に脚本を書いており、オーディオコメンタリーの収録でスタッフと3年ぶりに再会したそうだ。つまり脚本執筆は放送の2年以上前。

2023年4月23日追記:ホリミヤ』第2期(2023年7月-9月放送)のシリーズ構成・脚本を担当した吉岡たかをさんによると、脚本執筆は放送の1年前には終了していたそうだ。

原作もののテレビアニメは企画から放送まで最低2年、オリジナルなら開発に時間がかかるので最低3年以上はかかると言われている。1クールアニメで、視聴者の反応を見て話を変えることは不可能。『プリキュア』のような1年間のアニメですら、玩具の売り上げや視聴者からの反響を受けて作品にフィードバックできるのは後半のストーリーになってからだと、プロデューサーが語っていた。

脚本家はアニメスタッフの中で最初に仕事が終わってチームから離脱すると言われる。

1クールなら、脚本は言うに及ばず絵コンテも完成していないと厳しい。

1クールや2クールのテレビアニメで、視聴者の反応を見て脚本を変えるという妄想は非現実的。