映画の後には紅茶とお菓子を

百合とアニメと映画の感想

脚本家・高野水登さんの『リコリス・リコイル』レビューについて

脚本家の高野水登さんが、芸人で映画・ドラマ考察YouTuberの大島育宙さんに『リコリス・リコイル』をお勧めする動画。


【リコリコ】アニメ脚本家が熱弁する「実写映画好きほど観るべき理由」最終回前徹底解説

 

 

話題

広告業界、クリエイター業界で話題になっているそうだ。広告業界は、消費者をマインドコントロールして無駄なものを買わせる、お金を浪費させることを重要視している業界なので、『リコリス・リコイル』が話題になるのもさもありなん。大勢の視聴者を釣ることに成功した『リコリス・リコイル』は、広告業界で参考になるだろう。

電通は4代目社長・吉田秀雄氏が考案した「鬼十則」で知られているが、1970年代に提唱された「戦略十訓」も存在した。

1. もっと使わせろ
2. 捨てさせろ
3. 無駄使いさせろ
4. 季節を忘れさせろ
5. 贈り物をさせろ
6. 組み合わせで買わせろ
7. きっかけを投じろ
8. 流行遅れにさせろ
9. 気安く買わせろ
10. 混乱をつくり出せ

crd.ndl.go.jp

www.dai3.co.jp

 

性的消費

大島育宙さんは、女子高生を性的消費することに抵抗があると述べた。漫画やアニメなどでよく見られる、胸を強調した衣装デザインについて好まないそうだ。しかし高野水登さんは『リコリス・リコイル』をお勧めする。高野水登さんは『リコリス・リコイル』が女子高生を性的に描いていることに無頓着なのでしょうか。

第4話で千束とたきなが下着を買いに行く話を描き、試着室でたきなが千束に今履いている下着を見せてほしいと頼む。また、履いていたのは男性向け下着だったが、ジャンプでスカートが翻り下着が見えるシーンや、スカートめくりを何度も描いていた。

第8話では、千束とたきなが日本語学校で生徒に日本語を教えるシーンで、何の脈絡もなく、たきなが逆立ちするよう指示を出し、千束がスカートを押さえながら逆立ちしていた。

第8話終盤から第9話冒頭にかけて、姫蒲さんが千束の人工心臓を過充電して破壊した。そのため千束の胸元をはだけさせていた。

他にも千束やたきなの着替えシーンが何度か描かれている。

千束のトイレシーンもある。

女子が無自覚に排泄物に見えるバフェを作り、お店でずっと販売していたことに後で気づくという話をコメディとして描いていました。

また女子高生ではないものの、第4話で幼く見えるクルミの入浴シーンを描いていた。入浴中にタブレットを操作しブラックマーケットの武器相場を確認するのも、普通の部屋で行えること。クルミの入浴が作劇に必要だとは考えにくい。しかもミズキに怒られてお風呂からつまみ出され、裸で床に寝転ぶカットもあった。

高野水登さんは、これでも『リコリス・リコイル』は少女たちを性的消費していないと思われているのでしょうか?

 

水着と温泉回は僕も滅茶苦茶こだわりですよ! これが書きたくてアニメのシナリオを書いてるところがあるんだから!

スタッフインタビュー - SPECIAL|オリジナルアニメーション「忍の一時」公式サイト

水着回なんて、脚本で衣装の指定までしちゃってますからね。「この子は色気のないスクール水着っぽいやつ! こっちは可愛らしいやつ! こっちはちょっとパーカー羽織ってます!」とか。中坊のときに水着回でドキドキした気持ちを呼び覚まして書きました。

スタッフインタビュー - SPECIAL|オリジナルアニメーション「忍の一時」公式サイト

高野水登さんは創作物のキャラクターを性的消費しているようですね。それ自体は個人の自由ですが、少女の性的消費に抵抗がある人に性的消費描写を含む作品をお勧めするのは無作法では。アニメをあまり観ない理由として挙げている人に、性的消費に抵抗があることを理解していながら。ホラー映画が苦手な人に、騙してホラー映画を見せるようなもの。

 

会話劇

高野水登さんは『リコリス・リコイル』の「芝居の掛け合いが完全に会話劇」と指摘している。

「人間」としてキャラクターを作ろうという話をしていたんです。だから主人公が無双もしないし、女の子キャラが「○○だわ」「○○よ」とも言わない。フィクションっぽくなってしまう要素を、徹底して入れないように心がけました。

スタッフインタビュー - SPECIAL|オリジナルアニメーション「忍の一時」公式サイト

「○○だわ」「○○よ」という役割語を言わないことについては動画の中でも語っていたし、大島育宙さんのこだわりなのでしょう。

確かに足立慎吾さんは会話劇を目指していたようだ。

クエンティン・タランティーノ監督『パルプ・フィクション』(1994)について、足立慎吾さんはこう述べている。

わざわざ殺し屋だという説明もしないし、どういう性格なのか、ふたりの関係性がどうなのか、そういうことが連続する会話のなかから滲み出してくる。とても自然で説明的でもない、耳を傾けたくなる会話ですよね。

ストーリーやキャラクターの関係性を伝えるために、ここでこのセリフを喋らせておかなければいけない等と考えてしまいがちだと思うんですけども。この映画観てるとそういうストーリーを駆動させるためのセリフは不要なのかもって思っちゃう。

もっと言うなら、映画におけるストーリーって、実はどうでもいいのかなという風にも感じたり…。

【TV Bros. WEB】 『パルプ・フィクション』足立慎吾 第3回【連載 アニメ人、オレの映画3本】

films.hatenablog.com

大島育宙さんは声優のお芝居に関して音響監督の吉田光平さんを褒めている。木下麦監督、新田典生副監督、P.I.C.S.×OLM Team Yoshioka制作『オッドタクシー』(2021)も手掛けた。私も観たが、話がおもしろく、プロの声優もお笑い芸人も交じっての会話劇が巧みだった。

『オッドタクシー』を引き合いに出すくらいなら、なおさら『リコリス・リコイル』のシリーズ構成・脚本の稚拙さが理解できると思うのだけれど。

films.hatenablog.com

オリジナルものは先が読めないところが魅力ですけど、先がどうなるかわからないものはどうしても当たり外れが判断しづらくて、見続けるのが不安になることもあるかもしれない。

スタッフインタビュー - SPECIAL|オリジナルアニメーション「忍の一時」公式サイト

高野水登さんが『リコリス・リコイル』を絶賛する理由はこれでしょうか?

 

情報量

アニメは実写に比べて情報量が少なすぎる。高野水登さんは「音も後から付けなきゃいけないし」と述べている。

アメリカやイギリスの映画業界・テレビ業界は、実はかなりの音がポストプロダクションで作られている。*1

音響効果(効果音)は特に顕著。ドアの開閉音、テーブルや椅子の音、乗り物の音などは基本的に後付け。supervising sound editor(s) や sound designer(s) が中心になって音響を作りこむ。ルーカスフィルムの音響制作部門スカイウォーカー・サウンドには膨大な量の音声ライブラリーがあり、アメリカやイギリスの映像コンテンツを一手に引き受けている。

またフォーリーと言って、フォーリーアーティストが映像を見ながら足音や衣擦れなどを録音する。

台詞の後付けも多い。ロケーション撮影は周囲の雑音が入りやすいし、スタジオでも機材の音などで、録音した台詞が使えないことがよくある。だから俳優は、撮影終了後に録音スタジオで自分の出演シーンを見ながらアフレコする。ADR (automated dialogue replacement) と呼ばれている。日本の声優と同じように、走って息切れするお芝居は収録直前に運動して息を切らせる。

アメリカやイギリスの俳優がアニメーション映画や吹き替えでも上手いのは、ADRに慣れているのも理由の一つだと思う。声の芝居は、全身を使って演じる舞台演劇や映画・テレビドラマとは異なる技術が要求される。だから芸能人の声優初挑戦は下手な人が多い。上手い人はもともと声だけの芝居の技術があるか、飲み込みが早いか。舞台俳優やミュージカル俳優は声だけの芝居が上手い人が多い。芸人も結構いる。

日本映画界は撮影現場で録音した音に固執する傾向があるそうですが。

filmmania.blog.ss-blog.jp

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足立慎吾

「ストーリーはどうでもいい」主義のアニメーター足立慎吾さんが、ライトノベル作家によるプロットを没にして、企画を乗っ取った。アサウラさんのプロットや設定はあまり使われていない。足立慎吾さんのインタビューを読むと、ストーリーや設定をあまり考えていないようだ。だから「難しいことは考えないでほしい」とインタビュアーや視聴者に頼んでいた。

febri.jp

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自分で作ったくせに、キャラクターが何を考えているのかわからない、キャラクターの本質がわからないそうだ。その一方で「キャラが勝手に動く」とは言ってみたかったらしい。

 

「全スタッフ、全キャストが皆高水準で、高水準のものを作ろうとして、結果、だからなんで最初下馬評でそんなに盛り上がってなかったかというと、別に目立った人たちがいなかったんですよ。」

【リコリコ】アニメ脚本家が熱弁する「実写映画好きほど観るべき理由」最終回前徹底解説 - YouTube

足立慎吾さんは人気作品のキャラクターデザイン・総作画監督を務めるなど、アニメーターとしては、アニメファンに知られていた。でも監督経験がなく、もちろん脚本経験もなかった。

足立慎吾さんが考えたと明言されたストーリーや設定が、ことごとく足を引っ張っている。

絵しか描いたことがない、小説や漫画など物語を書いたことがない、しかも「ストーリーはどうでもいい」という考えを持つアニメーター。その足立慎吾さんが、初監督なのに第1話の脚本を書いた、だからすごいと高野水登さんはべた褒めしている。

 

シリーズ構成は一般的に経験豊富な脚本家が務める。新人脚本家が参加した場合、シリーズ構成担当者が新人をサポートし、上がって来た脚本を使い物になるまで底上げする。足立慎吾さんは素人なので、同じくアニメーター鹿間貴裕さんの素人脚本を直せずそのまま世に出した。だから第5話第6話のストーリーはクオリティが低い。映画業界には「いい脚本から悪い映画が出来上がることはあるが、悪い脚本からいい映画ができることはない」という格言がある。鹿間貴裕さんは第5話第6話の絵コンテも切ったが、脚本の酷さを誤魔化すことはできなかった。

大河内一楼さんは『∀ガンダム』(1999)で初めて脚本を書いたが、「出来上がった脚本はボロボロ」で富野由悠季監督に「絵コンテで半分以上直して」もらったそうだ。アニメのノベライズで何作も小説を書いていた大河内一楼さんですら、初脚本は使い物にならなかったと振り返っている

でも、大河内一楼さんは自分の失敗を理解して、星山博之さんの脚本を何度も繰り返し読むことで学び、2回目の脚本は採用された。富野由悠季監督『OVERMANキングゲイナー』(2002)ではシリーズ構成を務め、この作品の執筆を通して脚本の密度を上げることを学び、執筆速度も上がったそうだ。

高野水登さんも特に最初の頃は使い物にならない脚本を書いて、監督やプロデューサーから没にされた経験はありますよね? 本読み(脚本会議)では、たとえベテラン脚本家でも、監督やプロデューサーからダメ出しが出る。

足立慎吾さんはシリーズ構成・脚本を舐めていたのでは。各話演出家が本読みに出席することは基本的にない。監督になって初めて、本読みを経験する。だから足立慎吾さんは本読みの重要性も怖さも知らなかった。しかも自分が監督・シリーズ構成なので、ダメ出ししてくれる人が誰もいなかったのでしょう。『WORKING!!』『ソードアート・オンライン』の功労者である足立慎吾さんには、アニプレックスA-1 Pictures の社長やプロデューサーはイエスマンだろうし。

 

リコリス・リコイル』は描きたいシーンを並べただけで、物語も設定も破綻している。

脚本を書いている段階から画が浮かんでいる、と高野水登さんは推測している。画が浮かぶシチュエーションしか考えていないのでは?

「あまりにも一つ一つを丁寧に作っているから、全体のクオリティが上がりまくっている」。映像と音響を丁寧と評するのはわかりますが、ストーリーや設定も丁寧だと高野水登さんは思うのですか。

「初監督の人にここまで任せるっていうのはまあない」。つまりアニプレックスのプロデューサーと A-1 Pictures のプロデューサーが、ギャンブラーということでしょう。

高野水登さんは『リコリス・リコイル』の企画・シリーズ構成・脚本における失敗や問題を見抜けない脚本家のようだ。

 

大島育宙

大島育宙さんは、高畑勲監督・脚本・原案、坂口理子さん脚本、スタジオジブリ制作・製作『かぐや姫の物語』(2013)を、一番好きなアニメ映画だと答えた。大島育宙さんの映画やテレビドラマなどに対する審美眼に期待が持てる。

 

高野水登

高野水登さんは主に実写畑の脚本家で、最近アニメの脚本を書くようになった。

www.allcinema.net

アニメ関連だと、NHKの『世界を変えた女の子 エイダ・ラブレス編』(2021)の脚本や、加瀬充子監督、BN Pictures制作・製作『TIGER & BUNNY2』(2022)の第6話をシリーズ構成・ストーリーディレクターの西田征史さんと共同執筆。

高野水登さんは『リコリス・リコイル』のシリーズ構成・脚本についてこう評価した。

「おもしろいところはいっぱいある。話もおもしろいし、次への引きも気になるし。脚本を書いている身として、本当にこういうことやらなきゃだめだなと落ち込むくらいに話もおもしろい。上手い。」

【リコリコ】アニメ脚本家が熱弁する「実写映画好きほど観るべき理由」最終回前徹底解説 - YouTube

高野水登さんは、10月から放送されるオリジナルアニメ、渡部周監督、TROYCA企画原案・アニメーション制作『忍の一時』(2022)のシリーズ構成・脚本を書いている。『忍の一時』を楽しみにしていたのだけれど、高野水登さんが『リコリス・リコイル』を絶賛しているので不安になった。高野水登さんがシリーズ構成・脚本における問題を見抜けない脚本家ということだから。自著の問題点も気づかないのではないか。

プロの脚本家(あるいは小説家や漫画家)として名前を出したうえで、シリーズ構成・脚本に問題がある作品を絶賛するということは、脚本家(あるいは小説家や漫画家)としての実力を疑問視されるということですよ。

TROYCA社長でプロデューサーの長野敏之さんが構想を温めていたそうだ。

ベテランの方にお願いするよりも、今回は若手の意欲のある方に入っていただきたくて、DMMの担当者の方からのご紹介でお声掛けしました。そして受けていただけることが決まってから、稚拙なものですが、僕がやりたいことをまとめた原案と呼べる文章をお渡しして、そこに高野さんなりの解釈やアレンジをいっぱいくわえた企画の構成案を作ってもらった。

スタッフインタビュー - SPECIAL|オリジナルアニメーション「忍の一時」公式サイト

アサウラさんのプロットや設定をあまり使わずにシリーズ構成・脚本を書いた足立慎吾さんと似た状況。『忍の一時』がスタッフ・キャスト全員で制作会社プロデューサーのやりたいことを実現させる企画という点は全然違うけれど。

世に出たのは『TIGER&BUNNY 2』の第6話が先になりましたけど、着手していたのはこちらが先なので、初作品と言ってよいかな、と。初めてのアニメの仕事でいきなりシリーズ構成を任せていただけて、それどころか全話脚本までやらせていただけた。

スタッフインタビュー - SPECIAL|オリジナルアニメーション「忍の一時」公式サイト

足立慎吾さんの二の舞にならないといいですね。

 

 

9月29日追記:最終話まで見てそれでもなお絶賛している。高野水登さんの目は節穴のようだ。

これが商業作品を書いている脚本家の感想なのだから情けない。高野水登さんの実力は推して知るべし。

 

 

 

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*1:外国映画のメイキング映像の中には、開発、プリプロダクション、プロダクション、ポストプロダクションの各段階について詳しく説明しているものがある。