アニプレックス社長の岩上敦宏氏がソニー・ミュージックエンタテインメント社長に昇格する。
これが何を意味するか。
岩上敦宏氏は1997年にSPE・ビジュアルワークスに入社し社長になった生え抜き。今までアニプレックス社長がソニー・ミュージック社長に昇格したことはなかった。
北川直樹氏が2006年にソニー・ミュージック取締役 コーポレイト・エグゼクティブ レーベル&コンテンツビジネスグループCOO及びアニプレックス代表取締役執行役員社長になっているが、北川直樹氏はソニー・ミュージックの役員人事の一環で短期間アニプレックスの社長や会長を務めたに過ぎない。
ソニー・ミュージックはその名の通り音楽の会社である。アニメ事業はソニー・ミュージックの中で傍流に過ぎなかった。そのアニメ事業からソニー・ミュージックの社長が誕生した。つまりアニメがJ-POPを従えるという意味である。
事実、今の音楽業界では、アーティストも音楽プロデューサーもA&Rもアニメの主題歌タイアップに起用してもらおうとアニメ業界に尻尾を振っている。かつての音楽業界はアニメソングを恥だとしてなかったものにしてきた歴史がある。
ソニーグループ
ソニーグループの役員一覧を見ればわかるように、ソニー・ミュージック日本法人社長はソニーグループ社長兼CEOに直接報告する立場。
現在のソニーグループはゲーム・アニメ・音楽・映画とイメージセンサーが主力のコングロマリット。金融・保険事業は2025年に株式公開し、連結子会社から持分法適用関連会社に格下げした。テレビ製造事業を中国のTCLとの合弁にしたのもエンターテインメント企業に変化するための一環。
2010年代からソニーグループはアニメをグループの柱の1つとして重要視するようになった。それでも今までアニメ事業は、ソニー・ミュージック社長というアニメ制作現場を知らない門外漢の人が報告していた。今回の役員人事でようやく、製作委員会のプロデューサーとしてアニメの制作現場を知る人が発言権を得たことになる。
ソニーグループは、英語圏の大手アニメ配信プラットフォームであるFunimationとCrunchyrollを相次いで買収した。これにより、外国企業に握られていたアニメの配信網を日本アニメ業界が得たことになる。
製作会社のアニプレックス、アニメーション制作会社のA-1 PicturesとCloverWorks、3DCGアニメーション制作会社のBoundary、名プロデューサー大澤信博氏率いる企画・プロデュース会社のEGG FIRMを買収、そして配給・販売網のCrunchyroll。さらに『Fate/Grand Order』の開発会社ラセングル。
『週刊東洋経済』2023年5月27日号でも、アニプレックスはアニメ業界の最大手プレイヤーとして分析されていた。
2025年にはアニプレックスとTOHO animation(東宝)の二強だと。
実写映画
『国宝』の製作幹事ミリアゴンスタジオもアニプレックスの子会社。アニプレックスが実写映画製作に本格参入した。
日本映画界は1970年代にスターシステムと五社協定の崩壊の影響で斜陽になり、1970年代から1980年代半ばには角川書店の角川春樹氏によるメディアミックスとアイドル映画がヒットした。角川歴彦氏が1993年に復帰すると、同様にメディアミックスでKADOKAWAをエンターテインメント企業に育てた。
1980年代にはテレビ局が映画製作に本格参入。フジテレビは『南極物語』(1983)を皮切りに、国民の共有財産である電波を利用して1日中テレビ番組で映画の宣伝し、単純接触効果で観客を呼び興行収入を上げていた。*1『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003)は2025年に『国宝』に抜かれるまで、実写邦画の興行収入1位だった。
日本映画界は、テレビ局製作の映画やテレビドラマの続編映画が多かったが、近年はその神通力も薄れてきていた。『国宝』はテレビ局が製作委員会に出資しておらず、テレビ局での宣伝もなかった。その『国宝』が口コミで大ヒットし興行収入を塗り替えた。NetflixやAmazon Prime Videoのオリジナル作品もヒット作がいくつも出ている。今までのテレビ局製作映画のビジネスモデルが立ち行かなくなる可能性が出てきた。
まとめ
アニメは自動車産業の海外売上規模に匹敵する勢い。日本政府は、ソフトパワーとして役に立つから、お金になるからコンテンツ産業を成長分野と位置づけ持ち上げている。しかし、かつて漫画・アニメ・ゲームやオタクは犯罪者予備軍と軽蔑され差別されてきたようだ。だから価値がないと判断されれば切り捨てられるだろう。
石原慎太郎は作家として『太陽の季節』『完全な遊戯』などを書き発表したが、権力者になると、文学は高尚、漫画・アニメは低俗だとして表現弾圧した。子どもを守るという言い訳で。自分は表現の自由を享受したが、他人には享受させない。
石原慎太郎が東京都知事を務めていた2005年、都立七生養護学校の性教育に対する処分が行われた。この影響で、日本中で学校教育現場における性教育は委縮した。これがどういうことか。子どもが自分の体を守るための知識を得られないリスクがあるということだ。「寝た子を起こすな」思想は、子どもが性暴力被害にあっても構わないということ。そんな行政の責任者だった人が、ぬけぬけと子どもを守ると言えたものだ。
恣意的な改正で悪法となった東京都青少年健全育成条例は現在も表現の自由を縛り続けている。
このような老害から人を作品を守るためには、コンテンツ産業が強くなり発言権を得るしかない。岩上敦宏氏のソニー・ミュージック社長就任がその一助になることを願う。
