『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
製作年:2023年
製作国:日本
公開日:2023年11月17日
作品について
古賀豪監督。『ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』(2008)の監督。『ドキドキ!プリキュア』(2013)のシリーズディレクター(監督)。『ゲゲゲの鬼太郎』第6期の絵コンテ・演出。
水木しげるさんの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』が原作。映画オリジナルストーリー。
小川孝治シリーズディレクター(監督)、大野木寛さんシリーズ構成・脚本『ゲゲゲの鬼太郎』テレビシリーズ第6期(2018-2020)のスピンオフ映画。オリジンストーリー。前日譚。
谷田部透湖さんがキャラクターデザイン・総作画監督。初キャラクターデザイン。『ゲゲゲの鬼太郎』第6期の原画とED絵コンテ・演出・原画。
宮本絵美子さんがサブキャラクターデザイン・総作画監督。三塚雅人シリーズディレクター(監督)『魔法つかいプリキュア!』(2016)のキャラクターデザイン・作画監督。唐澤和也シリーズディレクター(監督)『DRAGON QUEST ダイの大冒険』(2020-2022)のキャラクターデザイン・総作画監督・作画監督。
澤守洸さんと堀越圭文さんが製作担当。2人とも唐澤和也シリーズディレクター(監督)『DRAGON QUEST ダイの大冒険』(2020-2022)の製作担当。
氷見武士さんが制作統括。谷口悟朗監督『ONE PIECE FILM RED』(2022)、井上雄彦監督『THE FIRST SLAM DUNK』(2022)などの制作統括。
平山理志さんが制作統括。サンライズのプロデューサーとして京極尚彦監督『ラブライブ!』シリーズ、酒井和男監督『ラブライブ!サンシャイン!!』シリーズを手掛けた。
東映アニメーションがアニメーション制作・製作。
超自然的ダークファンタジー・アニメーション映画。
『ゲゲゲの鬼太郎』アニメ映画第11作。
Anazon
感想
おもしろい。水木しげるさんの世界に横溝正史を織り込んだ作風。げに恐ろしきは人の業なり。
クローズドサークル。崖崩れによって外界との連絡が断たれ閉じ込められた田舎村が舞台のファンタジー。
ミステリーにおいて、ファンタジーやSF要素を持ち込み成立させるのは難しい。たとえば人体は壁を通り抜けできないなど、物理法則や自然現象を前提にすることでミステリーは成り立っている。ファンタジーやSF要素によって何でもアリになってしまうと、読者・視聴者が推理しても正解できなくなってしまう。よって一般的に、ファンタジーやSF要素に制限をかけることで推理を成立させることになる。この分野で優れている推理作家には、城平京さんや『六花の勇者』の山形石雄さんらがいる。城平京さんは『名探偵に薔薇を』『スパイラル 推理の絆』『ヴァンパイア十字界』『絶園のテンペスト』『虚構推理』『天賀井さんは案外ふつう』『雨の日も神様と相撲を』と、ファンタジー要素があるミステリーの名手。
1956年、太平洋戦争の爪痕がまだ感じられる。因習が残る田舎の村。横溝正史の推理小説『金田一耕助』シリーズをほうふつとさせる世界観。
背景美術がいい。彩度が低めの風景で、不吉な出来事を予感させる。
全編にわたり市川崑監督『犬神家の一族』(1976)のオマージュがちりばめられていた。
弁護士が遺言状を読み上げるシーンは、犬神御殿の大広間で古館恭三弁護士(小沢栄太郎)の右斜め後ろに金田一耕助(石坂浩二)が座っていたシーン。
事実、プロデューサーの永富大地さんは野村芳太郎監督『八つ墓村』(1977)を挙げていたそうだ。『八つ墓村』(1971)は「祟りじゃーっ! 八つ墓の祟りじゃーっ!」という台詞でも知られる。
『金田一耕助』シリーズは家の当主のせいで惨劇が起きる。近親相姦(正確には近親姦と言うべきか)もその1つ。
龍賀家の女性は優れた霊力を持つ子孫を残すために、当主に身を捧げ子を宿す役割を担わされている。
龍賀乙米も龍賀丙江も同じ過去を持つ。龍賀乙米はもともと龍賀の家柄に強い誇りを抱いている。娘も父親に差し出したのは、自分の過去を肯定するためでもあるのかな。精神衛生を保つため。性暴力被害を受けた人が、精神的苦痛を少しでも和らげようと性行為を繰り返すことがある。傷が深まることになるのだが。
龍賀時貞の業は、快楽のためでもあり支配欲でもあり、そして何より血筋が濃い子孫を生み出すことを目的にしていたこと。おぞましい。
龍賀沙代のキャラクターは、天樹征丸さんの推理小説『金田一少年の事件簿 雷祭殺人事件』の朝木時雨を思い出す。テレビアニメでは原作小説に書かれていた性暴力被害の描写を削除していた。
金田一一は金田一耕助の孫という設定どおり、『金田一少年の事件簿』は横溝正史のオマージュ。
鬼太郎の父と水木のバディもの。
鬼太郎の父がシャーロック・ホームズ、水木がジョン・H・ワトソンならば、龍賀沙代はメアリー・モースタンか。イギリス領インド軍大尉のお嬢様。しかし横溝正史の世界では幸せにはなれない。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が特に女性ファンを獲得したのは、男性2人のバディもの、また、家に縛られ虐げられてきた女性たちの物語、という点が大きいだろう。
近親姦による妊娠・出産を繰り返すと、メンデルの法則にのっとり顕性遺伝ではなく潜性遺伝が現れることがある。ヨーロッパの王族は近親婚を繰り返していたため、ヴィクトリア女王の子孫は血友病患者が多い。ハプスブルク家は病弱な王が続いた。また下顎前突症の人が多かった。長田時弥が病弱なのは近親生殖の影響だろう。
インセスト・タブーであるため、近親相姦による影響に関する研究はそもそも十分ではない。経験者の多くは他人に明かさないので、近親姦は結構行われているのではないかと言われている。
龍賀一族が経営する龍賀製薬は血液製剤「M」を秘密裏に開発・製造し、販売して莫大な利益と権力を得ていた。Mはヒロポンのことだろう。
嘘や甘言で集めたり拉致してきたりした人たちに幽霊族の血を投与しMを生成していた。村ぐるみの悪業。
各国の軍隊の研究機関は不死身の研究や強化人間の研究をしていると言われている。かつて大日本帝国軍も研究していただろう。731部隊や登戸研究所のような機関で。
絶対音感は敵の戦闘機の音を聞き分け、いち早く空襲に備えることができると考えられていた。最相葉月さんのノンフィクション本『絶対音感』に記されている。
血液型性格診断は、大日本帝国陸軍の軍医たちによる、血液型により兵士としての適性判断ができないかという軍事目的の研究が下敷きになっている。
『イレブンス・アワー』(2008)第7話「Surge/サージ」は、国防高等研究計画局(DARPA)が製薬会社と共同で、「兵士強化プログラム」と称して、PTSDを抱える帰還兵で人体実験を行っていたという話。(スティーヴン・ギャラガー原作、ミック・デイヴィス開発・製作総指揮、ジェリー・ブラッカイマー製作総指揮、ダニー・キャノン製作総指揮。ガイ・ファーランド監督、フレッド・ゴラン原案、エンジェル・ディーン・ロペス脚本。)
幽霊族は人間の歴史より古くからいた。
フランドルの画家ピーテル・ブリューゲルの絵画『バベルの塔』(c. 1563)が挿入されていた。『旧約聖書』の『創世記』の話をもとにしている。
エンディングでは、哭倉村での記憶を失った水木が鬼火に導かれて一軒家に向かうと、変わり果てた姿のゲゲ郎がおり、恐怖で逃げ帰った。東京で仕事をしていたが、ふと再び家に向かうとゲゲ郎と妻の亡骸が横たわっていた。水木は妻の遺体を葬った。ゲゲ郎の遺体から目玉が落ち、目玉おやじとなった。
お墓の地面から鬼太郎が這い出してきた。水木は妖怪の子は災いをもたらすからと殺そうとしたが、ゲゲ郎の記憶が蘇り、鬼太郎を育てることを決意した。目玉おやじが遠くから見守る中で。
原作『墓場鬼太郎』につながるようになっている。そして最後に題名を表示する演出が素晴らしい。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のコンセプトは「大人向けのホラーとして作る」ことだったそうだ。
映倫のレイティングではPG12指定だったが、Netflixのレイティングは16+になっている。Amazon Prime Videoは日本向けにはPG12のままだが。
映倫による日本の映画レイティングは総じて緩いので、Netflixはアメリカのモーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA、旧略称MPAA)によるレイティングに則しているのかもしれない。
https://about.netflix.com/ja/news/maturity-ratings-japan
鬼太郎の父を演じた関俊彦さんは、小津安二郎監督作品を参考にしたそうだ。小津安二郎監督は親子の関係を題材にした映画が多い。日本映画の名監督の1人。
水木を演じた木内秀信さんは、古賀豪監督から小林正樹監督『あなた買います』(1956)を観るようにと指示されたそうだ。小林正樹監督『怪談』(1964)は小泉八雲の「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話」「茶碗の中」の4編からなるアンソロジー映画で、特に「雪女」の美しい映像が印象に残っている。日本映画の名監督の1人。
水木は龍賀丙江に「佐田啓二みたい」と称されている。佐田啓二さんは早世した名俳優。NHKの伝説のラジオドラマを映画化した大庭秀雄監督『君の名は』三部作(1953-1954)で岸惠子さんと共演。BS松竹東急で放送されていたので観た。
木下惠介監督作品や小津安二郎監督作品に多数出演したことでも知られる。小津安二郎監督の『彼岸花』(1958)、『お早よう』(1959)、『秋日和』 (1960)、『秋刀魚の味』(1962)。
中井貴惠さんと中井貴一さんは佐田啓二さんの子ども。中井貴惠さんのエッセイ集『父の贈りもの』では、幼少期の家族の思い出が語られている。
藤子・F・不二雄さん原作の安藤真裕監督『T・Pぼん』(2024)第1期第2話「見ならいT・P」は、太平洋戦争から帰って来た男性と息子を待ち続ける母親の話。(シリーズ構成・脚本:柿原優子、絵コンテ:安藤真裕、演出:西田健一、作画監督:大貫健一/秋山英一/ヤマダシンヤ)
ゲゲ郎や水木が時弥に未来はいい世界になると話していたシーンで、原恵一監督『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001)を思い浮かべた。
私が生まれたときにはすでに「失われた10年」で、高度経済成長、安定成長、バブルは現代史の出来事。日本の未来に夢を見たことはない。
作画における日常芝居が上手い。
ゲゲ郎と妻の思い出(のろけ話)は、白黒映像の中でデパート屋上の回転遊具の乗り物だけが赤色。パートカラー。黒澤明監督『天国と地獄』(1963)、フランシス・フォード・コッポラ監督『ランブルフィッシュ』(1983)、スティーヴン・スピルバーグ監督『シンドラーのリスト』(1993)など。
余談
この感想記事の原稿は2024年にNetflixで配信が始まった時に観て書いたのだが、当時ブログをやめようかと考えていたので投稿しなかった。テレビ放送されたので投稿した。
『ガールズバンドクライ』(2024)では氷見武士さんが制作統括、平山理志さんがプロデューサーを務めている。サンライズから東映アニメーションに移籍した平山理志さんが『ラブライブ!サンシャイン!!』の酒井和男監督と脚本家の花田十輝さんを呼び寄せて制作した、ガールズバンドのオリジナルテレビアニメ。
キャスト
昭和31年
鬼太郎の父(後の目玉おやじ):関俊彦
水木:木内秀信
龍賀沙代:種﨑敦美
長田時弥:小林由美子
龍賀時貞:白鳥哲
龍賀時麿:飛田展男
龍賀孝三:中井和哉
龍賀乙米:沢海陽子
龍賀克典:山路和弘
龍賀丙江:皆口裕子
長田庚子(龍賀庚子):釘宮理恵
長田幻治:石田彰
ある謎の少年(ねずみ):古川登志夫
鬼太郎の母:沢城みゆき
スタッフ
原作:水木しげる
監督:古賀豪
脚本:吉野弘幸
絵コンテ:古賀豪
演出:松實航、近藤こころ、鎌谷悠
キャラクターデザイン:谷田部透湖
妖怪デザイン:村俊太朗
サブキャラクターデザイン:宮本絵美子、藤原未来夫、窪秀巳、米本奈苗、内山翠、岡崎洋美
総作画監督:谷田部透湖、宮本絵美子
総作画監督補佐:山室直儀、追崎史敏
作画監督:藤原未来夫、市川吉幸、太田晃博、米本奈苗、村俊太朗、酒井夏海、井手武生
作画監督補佐:蔡泓鏗、仲條久美
動画検査:黒田亜理沙、久保田由華、梶岡知央、小椋淳司、張逸暉、Bienvenido Lustañas、Ericson Ramos
色彩設計:横山さよ子
色指定検査:中島苗実、角美智子、佐藤祐子
美術デザイン:天田俊貴
美術監督:市岡茉衣
美術補佐:野村正信
撮影監督:石山智之
撮影監督補佐:飯島亮
CGプロデューサー:榊原智康、奈良岡智哉
CGディレクター:志賀健太郎、入川慶也
編集:吉田公紀
音楽:川井憲次
音楽プロデューサー:犬塚舞
録音:松田悟
ミュージックプランナー(選曲):佐藤恭野
音響効果:中島勝大
フォーリー:有銘優佳、安保早紀、今村健一郎
ダビングエンジニア:渡部未佳、宮原健
演出助手:江連秋、城戸康平
記録:小川真美子
製作:高木勝裕、吉村文雄、原口智裕
企画:内藤圭祐、石川啓
エグゼクティブプロデューサー:篠原智士、鈴木篤志
シニアプロデューサー:井上貴博、柴田宏明
製作担当:澤守洸、堀越圭文
制作統括:氷見武士、平山理志
アニメーション制作:東映アニメーション
製作:映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会(東映アニメーション、東映、水木プロダクション)
配給:東映