映画の後には紅茶とお菓子を

百合とアニメと映画の感想

『86-エイティシックス-』第7話感想: 悪趣味なメタファーの連打(ほめ言葉)

86-エイティシックス-』第7話「忘れないでいてくれますか?」

 

 

感想

澤野弘之さんの劇伴はワンパターンという印象がある。もちろん監督、音響監督、プロデューサー、音楽プロデューサーから、「○○みたいな曲を」と発注されているからというのもあるだろう。澤野弘之さんかKOHTA YAMAMOTOさんかはわからないけれど、第7話冒頭のピアノ曲はいいね。

 

花火を特殊弾頭として送る。打ち上げ花火だけではなく、ファンシーな絵柄の手持ち花火も。

誤魔化すのが下手なレーナ。声が上ずり、顔が引きつっている。

 

革命祭の空想で、『赤髪の白雪姫』のティザーPVで使われていた音楽が。


TVアニメ『赤髪の白雪姫』PV第1弾

Nash Music LibraryのInternational Forumという楽曲。有料の音楽素材を商業アニメの本編に使うのは珍しい。

www.nash.jp

 

レーナとアネットのドレス姿。2人とも美人さん。お化粧している。

頭に水色の花を挿している。喪服のような真っ黒なドレス。お城の高い塔から出てこない貴婦人かな? チュールやヘッドドレスで顔を隠すとそれっぽい。カーテシーのように、ドレスをつまんでくるり

アネットは白とクリーム色のドレス。

 

子どものとき、家族で花火大会を見に行って、花火を見ていて涙が出てきたことがあった。

 

アンジュがやっと泣けた、というシンの言葉を聞いた後だから、飄飄としたアンジュとの対比で感慨深い。

 

 

演出

時間を入れ替える演出。

管制室でのことを思い返していて、子どもの「痛い」という泣き声で我に返る。同ポジション。レーナが持っていた花束が落ちるのをスローモーションで。「シンがいなくたって、どうせ断末魔の悲鳴なんてプロセッサーならいくらでも聞いてるから」という言葉と、先ほどの子どもが転んだ「痛い」の合わせ技で強調。

 

お祭り

f:id:naotie:20210523075406j:plain
f:id:naotie:20210523075419j:plain
f:id:naotie:20210523075423j:plain
f:id:naotie:20210523075426j:plain
f:id:naotie:20210523075430j:plain
生と死を司る食事 ©2020 安里アサト/KADOKAWA/Project-86

「機体ごと爆散して即死するのは死に方としては上等。手足吹っ飛ばされて、顔が削れて無くなって体中焼けただれてお腹が裂けて内臓がはみ出て」
お祭りの客がステーキの肉を切る、ほおばる、赤ワインをグラスに注ぐ、デザートのプディングにスプーンを入れる、プディングの弾力で形が潰れる、カラメルソースが皿いっぱいに広がる。悪趣味なメタファーの連打(ほめ言葉)。食事は生と死を司る。この種の映像演出はときおり用いられる。

キリスト教では、パンはイエス・キリストの肉体、ワインはイエス・キリストの血液という意味がある。だから教会での礼拝の後で、パンを食べたりワインを飲んだりすることがある。

「痛い苦しいって泣き叫んで仲間が死ぬのなんて、皆何度も見てる。とっくに死んだやつの声なんて、別にそれに比べれば大したことじゃない」
デート中のカップル。お祭りを楽しむ親子。それら共和国の白系種と有色種の対比。

「誰が死んだって、私たちにはもう、何もおかしいことなんかじゃない」
熊の着ぐるみが配っていた赤い風船が、上空に飛んでいく。天に旅立つというメタファー。

 

ワイン

ジェローム・カールシュタール准将の机にワインボトルがあるのは、お祭りで食事していた人たちと同類という演出。レーナの父の友人であり、レーナに目をかけているが、それでも共和国軍人であるということ。レーナの希望や甘えを打ち砕く。

 

花火

花火は球がはじけてから音が人の耳に届くまで時間差がある。でもアニメでは花火がはじける映像と同時に効果音を鳴らす。現実に即して音をずらすと、アニメの場合は違和感があるから。『86-エイティシックス-』第7話では、リューム宮殿の花火はレーナのいるお城より遠いので、時間差があり、鈍い音になるよう調整している。効果音自体も音量が小さい。

「少佐は俺たちのことも忘れないでいてくれますか?」と言われて、無意識に手を伸ばす。それまで花火の音を消して劇伴の穏やかなピアノ曲だけを流していたが、その瞬間、ピアノがフォルテで盛り上がり、花火の音が鋭く、間近で聞こえるようになった。

f:id:naotie:20210523085405j:plain

決意のレーナ ©2020 安里アサト/KADOKAWA/Project-86

「当たり前です。でも、その前に死なせません。もうこれ以上、誰も」
レーナ、決意の表情芝居。いいお芝居をする。

そしてここぞとばかりに、花火の音が強くはっきり響く。

レーナは建国を祝う革命祭に出席したのではない。共和国が掲げる理想を葬るための儀式に出席した。またメタな見方をすると、スピアヘッド小隊を含む共和国の犠牲になった人たちへの手向け。だから革命祭の花火は鈍重で、レーナとスピアヘッド小隊の花火は鮮やか。

そしてサブタイトル。

 

シャワー

アンジュの背中に刻まれた文字をスローモーションで。シャワーの水滴が遅く動くのでより効果的。

アンジュはこれまで誰とも一緒にシャワーを浴びなかった、とクレナ。"...re's ...aught..."、おそらく"whore's daughter"。かつて強制収容所で虐待を受けて、無理やり刺青を入れられたのだろう。髪を伸ばしていたのは隠すためだったが、ダイヤがそれを理解したうえで綺麗だとほめてくれた。

シンに気持ちを伝えなくていいの、と聞かれ、シャワーの水滴が2筋、髪で隠れた目元から流れ、頬を伝い顎の先で合流し、大きな一滴が床に落ちる。涙のメタファー。

「たぶんあたしにはそれを言う資格はないと思うから」というクレナの言葉に合わせて、落ちた水滴(涙)が、場面転換した次のカットで血だまりに落ちる。死のメタファー。

クレナは、シンが仲間を楽にしてあげる瞬間を目撃した。
「たとえ死んでも連れて行ってもらえる。あたしたちだけの死神に」
直後の打ち上げ花火は、拳銃で射殺することのメタファー。

「あたしはきっと連れて行ってもらえる」

手持ち花火は儚い命のメタファー。

 

戦死

花火を楽しんでいるシーンと、戦場で攻撃され戦死するシーンのparallel editing。

 

水たまり

f:id:naotie:20210523085218j:plain
f:id:naotie:20210523085221j:plain
落ちた首 ©2020 安里アサト/KADOKAWA/Project-86

「俺たちは全滅します。この部隊(舞台)はそのための処刑場です」
水たまりに落ちる、人型の的の首。言わずもがな。最初は何が落ちたかわからないように見せて、共和国は全滅するのを待っているだけという話をしている最中に、その意味を引いた構図で見せる。ほんといやらしい(ほめ言葉)。

水たまりに反転して映った、シン、アンジュ、ハルトの姿。

 

ライデン

f:id:naotie:20210523085225j:plain

ライデンの決意 ©2020 安里アサト/KADOKAWA/Project-86

「明日死ぬからって、今日首くくる間抜けがいるかよ。死刑台に上るのは決まってても、上り方は選べるだろってそういう話だ。俺たちは選んで決めた。後はその通り生き延びるだけだ」
ライデンの格好いい言葉を、背中で語らせ、格好いいシンメトリーのレイアウトで。広角レンズ。ローアングルショットで雄大さを表現。雲が流れる夜空から、月明かりが差し込む。

 

決意

花火と、生き残っている面々のparallel editing。

 

エンディング

赤く血に染まった腕。

第5話絵コンテ・演出の髙橋さつきさん。

films.hatenablog.com

 

 

まとめ

伊藤智彦さんが絵コンテ・演出。意地が悪いね(ほめ言葉)。

このアニメは全体的に石井俊匡監督の演出方針で統一されている。そのなかで、各話数の演出家がその人の色を加えている。演出という観点でも、見ごたえのある作品。

 

 

キャスト

シンエイ・ノウゼン:千葉翔也
ヴラディレーナ・ミリーゼ:長谷川育美
ライデン・シュガ:山下誠一郎
セオト・リッカ:藤原夏海
アンジュ・エマ:早見沙織
クレナ・ククミラ:鈴代紗弓
カイエ・タニヤ:白石晴香
ダイヤ・イルマ:石谷春貴
ハルト・キーツ山下大輝
クジョー・ニコ:村田太志
ルイ・キノ:植木慎英
チセ・オーセン:小野将夢
トーマ・ソービ:福原かつみ
トウザン・サシャ:坂泰斗
レッカ・リン:石上静香
ミクリ・カイロゥ:貫井柚佳
マイナ・ヤトミカ:風間万裕子
アンリエッタ・ペンローズ:杉山里穂
ジェローム・カールシュタール:三上哲
レフ・アルドレヒト:楠大典
ショーレイ・ノウゼン:古川慎

 

 

第7話スタッフ

脚本:永井千晶
絵コンテ・演出:伊藤智彦

アクション監修:松本顕吾

作画監督:笠原由博
総作画監督川上哲也

原画:
降矢瑞生  寺谷瑠宇公
南りりこ  伊藤美奈
松田芳明  竹田茜
米澤篤   津野満代
玉谷朋香  尾鼻亮太
小川莉奈  佐藤綾香
真壁誠   三浦琢光
阿久津徹也

笠原由博
 
第二原画:
浅見日香留  野村優
鈴木優介   青木彩花
抜水スンジュ 長谷川凌真
野中愛    谷口円
月乃むあ   髙嶌聖也
井上高宏   阿萬和俊

動画検査:佐藤千春
色指定・検査:大塚実

 

 

メインスタッフ

原作:安里アサト
原作イラスト:しらび
原作メカニックデザイン:I-Ⅳ
監督:石井俊匡
シリーズ構成:大野敏哉
キャラクターデザイン・総作画監督川上哲也
サブキャラクターデザイン・総作画監督:猪口美緒
プロップデザイン:渡辺浩二、辻彩夏
メインアニメーター:笠原由博
アクション監修:柳隆太、松本顕吾
色彩設計:安部なぎさ
美術監督野村正信、堀越由美
背景:美峰
CG監督:吉田裕行
CG制作:白組
撮影監督:岡﨑正春
編集:三嶋章紀
音響監督:明田川仁
音響効果:小山恭正
音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO
音楽プロデューサー:山内真治
音楽制作:アニプレックス
チーフプロデューサー:三宅将典、高林初、野瀬和也
プロデューサー:中山信宏、清瀬貴央、都真由
アニメーションプロデューサー:藤井翔太
制作統括:柏田真一郎、加藤淳、清田穣二
制作デスク:町口漱汰
設定制作:田中めぐみ
制作:A-1 Pictures
製作:Project-86(ANIPLEX、KADOKAWABANDAI SPIRITS)