映画の後には紅茶とお菓子を

百合とアニメと映画の感想

『すずめの戸締まり』感想

『すずめの戸締まり』
製作年:2022年
製作国:日本
公開日:2022年11月11日

 

 

作品について

新海誠監督・脚本・原作。

ファンタジー・ドラマ・アニメーション映画。

suzume-tojimari-movie.jp

 

 

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感想

名作映画。何度も涙が出てきた。

主人公が過去の喪失を受け入れ呪縛から解放される物語。そして家族愛の物語。

幼い鈴芽が常世に迷い込んでしまい、お母さんが自分の身を挺して娘を助けたのかなと観ている最中には思った。東日本大震災で鈴芽はお母さんをを亡くした。お母さんを探す途中で、電波塔にあった扉を開け常世に入ってしまった。

鈴芽の実家は気仙沼。お母さんは津波に飲み込まれてしまったのだろう。

4歳の鈴芽に「あなたはちゃんと大きくなる」「あなたは大人になっていく」「私はね……すずめの、明日!」と16歳の鈴芽が語りかける。未来の自分が過去の自分を助ける。(ある意味)タイムトラベルしてきたもう一人の自分に、自分の親の姿を重ねて見ていた、そしてそのことに後で気づく話は結構ある。たとえば、J・K・ローリング著『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(1999)、及びアルフォンソ・キュアロン監督、スティーヴ・クローヴス脚本、デヴィッド・ヘイマン製作、クリス・コロンバス製作の映画版(2004)。

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芹澤によると草太は自分を蔑ろにしているので、草太は閉じ師として自己犠牲もやむなしという意識があったのだろう。

草太を演じた松村北斗さんが印象的な台詞に挙げていた「大切な仕事は、人から見えないほうがいいんだ」がいいね。

 

君の名は。』(2016)、『天気の子』(2019)に続き、自然災害を題材にした三部作。

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2016年の熊本地震、2018年の愛媛の豪雨、1995年の阪神・淡路大震災、1923年の関東大震災、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)。

この映画を楽しめない人もいるだろう。過去を思い出してしまうだろう。

パンフレットの新海誠監督インタビューの中で、東日本大震災を知らない人たちもたくさんいるだろう、2010年に生まれた自分の娘にとっては教科書の中の出来事だろう、と言っているのが印象に残った。私も20世紀あるいは昭和時代は現代史、歴史という認識だから。

 

地震と震災を題材にしたアニメでは、橘正紀監督『東京マグニチュード8.0』(2009)がある。

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少女と異形の者のバディもの。恋愛関係ではなく、旅を通じて信頼しあう相棒になる点がいい。

鈴芽が草太に入れ込んでいるのは、かつて常世で大人の姿の2人に出会っていた記憶が無意識に影響しているのかもしれない。「どこかで会ったことがある」と言っていた。

ロードムービー。宮崎、愛媛、神戸(兵庫)、東京、宮城と、各地の風景が変わる。

ミミズを鎮めるシークエンスが要所要所に描かれる。

いつも映画を観るときとは異なり事前にあらすじなどの情報を入れずに行ったから、それが結果的によかった。

 

パンフレットによると、ダイジンは大臣と大神のダブルミーニング。つまりダイジンとサダイジンは神社の矢大神と左大神でもある。

ダイジンは前半では邪悪さを持ち合わせているように描かれていて、後半では鈴芽の味方として描かれる。実はずっと、プレートのひずみにより地下に溜まったエネルギーが噴出してミミズとして暴れだす場所、つまり地震が起きる場所を鈴芽に教え導いてくれていたことが終盤で明かされる。

東京でミミズを封印した後、大きくなって落下する鈴芽を包み込み助けた。宮城での常世でも鈴芽を助けた。

神様は人間には計り知れない存在なので、時に人間を弄び、時に生き物の命を奪い、時に人間を助ける。猫の気まぐれさでもある。

サダイジンが環に憑依していたときの言葉は、環が心の奥底にしまっていた深層心理。重いという鈴芽の本音に呼応して、環の本心も表に出てきた。でもそれ以上に環は鈴芽を愛している。だから直後にどうしてあんなことを言ってしまったのかと泣いたし、後に環と鈴芽はお互いの気持ちを受け入れた。本音をさらけ出せる家族になれた。うまく折り合いをつけて生きていけるだろう。

皇居の地下で鈴芽に嫌いとはっきり言われ、鈴芽の子どもになれないと、落胆して鈴芽のもとを去る。ダイジンは長年要石を務めていて孤独だった。要石の呪いから解放してくれた鈴芽と一緒に遊びたかったのかもしれない。鈴芽の家に現れたとき、ご飯をもらい「うちの子になる?」と尋ねられて嬉しかったのだろう。

宗像羊朗氏の話から考えると、要石は人柱。長年要石をやっていると神様になる。ダイジンは子どものときに生贄にされたのだろう。

宗像羊朗氏の話から考えると、要石は呪いを受けた生き物が常世に閉じ込められてしまうようだ。だから長い歴史の中で東と西の要石が場所を変えてきたのは、もともとの要石が何らかの理由で抜かれ、別の生き物に要石の呪いをかけ、呪いをかけられた生き物が移動しているうちに身体が凍りつき常世に閉じ込められ、要石になってしまったのかな。ダイジンはそんな生き物の1匹だったのだろう。

化け猫になれば人間の言葉を話せる。

 

鈴芽がお世話になった千果の家の民宿も、ルミのスナックも急にお客さんが増えた。要石を抜いた鈴芽が招き猫のようになっている?

スナックではダイジンは周囲の人に人間だという幻影を見せている。

 

地震は地中のナマズが起こしているという言い伝えがあった。また地震と龍が関連付けて語られることもあった。『すずめの戸締まり』ではエネルギーの噴出をミミズに例えている。

 

いい音響設備で観た方がいい。映像も HDR (Dolby Vision) で映えるだろうから、Dolby Cinema でも観たい。

 

劇伴がよかった。ミミズを封印する劇伴と「すずめ feat.十明」のスキャットのためにサウンドトラックを買ったと言っても過言ではない。気に入った。

www.e-onkyo.com

パンフレットと入場者特典の新海誠本は『すずめの戸締まり』の理解するうえで参考になる。どちらも新海誠監督のインタビュー記事が興味深い。

パンフレットにはキャラ表や美術設定と美術ボードが掲載されている。

新海誠本には『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』の企画書の抜粋が掲載されている。

 

 

演出

扉は異界への境界。「後ろ戸」を閉じる「閉じ師」。常世に足を踏み入れた者は現世には戻れない。でも『すずめの戸締まり』は「行きて帰りし物語」として作られている。

日常シーンで、鍵を開ける閉める描写をクロースアップで執拗に強調していた。また踏切の前で引き返したり、電車の乗り降りや家の玄関など、境界線や足が線を超える瞬間を強調していた。

 

鈴芽の絵日記が3月11日以降、クレヨンで黒く塗りつぶされている。

 

蝶が何度も描かれている。蝶は死者の魂という言い伝えがある。

 

君の名は。』『天気の子』のミュージックビデオ演出をやめて、ドラマの演出に徹したのが好印象。

 

アクションシークエンスで3Dレイアウトによる作画を活用していた。ミミズが暴れた場所は3Dモデルで背景美術を作っている。

 

 

土屋堅一

土屋堅一さんが作画監督

君の名は。』の安藤雅司さん、『天気の子』の田村篤さんはともにスタジオジブリ出身で、宮崎駿監督、高畑勲監督、近藤喜文さんらのもとで学んだアニメーター。

一方、土屋堅一さんはスタジオあんなぷる出崎統監督と杉野昭夫さんの指導を受けて育ったアニメーター。しかも日本で数少ない、ディズニーアニメーションの animation を身に着けたアニメーターの1人。ウォルト・ディズニー・カンパニーはかつて日本でもアニメーション制作会社を経営していた。土屋堅一さんはウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパン (Walt Disney Animation Japan) が制作したOVAやアニメーション映画で原画 (Key Animator) やリードアニメーター (Lead Animator)、作画監督 (Animation Director) や総作画監督 (Supervising Animation Director) を務めていた

ジュン・ファルケンシュタイン監督『ティガー・ムービー プーさんの贈りもの』(2000)の総作画監督 (Supervising Animation Director)。

films.hatenablog.com

2004年にWDAJが閉鎖された際に、徳永元嘉さんらWDAJのスタッフとアンサー・スタジオを設立した。

星を追う子ども』(2011)以降、土屋堅一さんは新海誠監督作品で作画監督やキャラクターデザインを務めているアンサー・スタジオ新海誠監督作品にアニメーション制作協力で参加している。

大成建設のCMでキャラクターデザイン・作画監督を務めている。

www.taisei.co.jp

 

 

余談

原画制作協力として TOHO animation STUDIO がクレジットされていた。東宝は2022年9月16日付で TIA株式会社を子会社化し、株式会社TOHO animation STUDIO に社名変更した。

animationbusiness.info

 

 

キャスト

岩戸鈴芽:原菜乃華
宗像草太:松村北斗(SixTONES)
ダイジン:山根あん
岩戸環:深津絵里
岡部稔:染谷将太
二ノ宮ルミ:伊藤沙莉
海部千果:花瀬琴音
岩戸椿芽:花澤香菜
芹澤朋也:神木隆之介
宗像羊朗:松本白鸚
岩戸鈴芽(幼少期):三浦あかり
ミキ:愛美

 

 

スタッフ

監督:新海誠
脚本:新海誠
原作:新海誠
助監督:三木陽子
演出:徳野悠我、居村健治、原田奈奈、下田正美、湯川敦之、井上鋭、長原圭太
演出補佐:重原克也
CGキャラクター演出:瀬下寛之
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一
作画監督補佐:西村貴世、井上鋭、大橋実、小林直樹
色彩設計山本智子
美術監督:丹治匠
CG監督:竹内良貴
撮影監督:津田涼介
編集:新海誠
音響監督:山田陽
音響効果:伊藤瑞樹
音楽:RADWIMPS、陣内一真
企画・プロデュース:川村元気
エグゼクティブプロデューサー:古澤佳寛
プロデューサー:岡村和佳菜、伊藤絹恵、伊藤耕一郎
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
制作プロデュース:STORY inc.
製作:「すずめの戸締まり」製作委員会(コミックス・ウェーブ・フィルム東宝、STORY inc.、voque ting、KADOKAWAジェイアール東日本企画、ローソングループ、アニプレックス)
配給:東宝

 

 

絵コンテ 新海誠
演出 徳野悠我 居村健治 原田奈奈 下田正美 湯川敦之 井上鋭 長原圭太
演出補佐 重原克也
CGキャラクター演出 瀬下寛之

作画監督 土屋堅一
作画監督補佐 西村貴世 井上鋭 大橋実 小林直樹

原画
 大橋実 西村貴世 立中順平 田村篤 竹内旭 髙木麻穂
 伊藤秀次 植野千世子 高士亜衣 廣田俊輔 黒澤桂子 堀剛史
 桝田浩史 アニータ キム 篠原天球馬

 川又清 齋藤直子 北澤精吾 岡本ルーク飛鳥 徳土大介 長原圭太
 秋津達哉 秋竹斉一 君島繁 薮並円佳 林祐己 河野悦子

 井上鋭 宮野紗帆 平山森 平澤真 雪村愛 久保田誓

 小林直樹 青山浩行 下司祐也

 吉田咲子 広瀬いち子 石井哲裁 奥田佳子 竹内志保 本間晃
 もああん けろりら 小林恵祐 Bahi JD 徳野悠我 三木陽子
 土屋堅一 藤澤志織 西村聡

第二原画 76人

サダイジン(巨大化)設定 伊藤秀次

プロップ設定
 土屋堅一 髙木麻穂 田村篤 長原圭太
 アニータ キム 田邊香奈子 鍵山莉奈 永木歩実
 伊藤秀次、田中将賀

イメージボード
 徳野悠我 海島千本 丹治匠 新海誠

動画検査
 玉腰悦子 中嶋智子 金原知美 松田裕美
 松岡理恵子 手島晶子 北島由美子 中野江美
 今井翔太郎 竹之内節子

動画検査補佐
 田邉香奈子 笠川理紗