映画の後には紅茶とお菓子を

百合とアニメと映画の感想

『ライオン・キング』(2019)感想

ライオン・キング
原題:"The Lion King"
製作年:2019年
製作国:アメリカ合衆国
公開日:2019年7月19日

 

 

作品について

ジョン・ファヴロー監督・プロデューサー。

ロジャー・アレーズ監督、ロブ・ミンコフ監督、ウォルト・ディズニー・フィーチャー・アニメーション制作・製作『ライオン・キング』(1994)のリメイク。

ミュージカル・ドラマ・アニメーション映画。

 

ジョン・ファヴロー監督・製作『ジャングル・ブック』(2016)のスタッフの多くがそのまま『ライオン・キング』に移り制作した。

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ムファサとスカーの若い頃を描く前日譚として、バリー・ジェンキンス監督 "Mufasa: The Lion King" を製作中。アーロン・ピエールがムファサを、ケルヴィン・ハリソン・Jr.がスカーを演じた。2024年7月5日に公開予定。

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感想

おもしろい。

UHD BD を持っている。

ライオン・キング』はウィリアム・シェイクスピアの悲劇『ハムレット』を下敷きにしている。翻案。

また『旧約聖書』の『創世記』に登場するヨセフや『出エジプト記』などに登場するモーセの話を参考にしているとも言われている。

草食動物までもが、自分たちを殺して食べる肉食動物の子どもの誕生を祝う、というファンタジー。原作からしてそうだから仕方ない。

 

ロジャー・アレーズ監督、ロブ・ミンコフ監督、ウォルト・ディズニー・フィーチャー・アニメーション制作・製作『ライオン・キング』(1994)はディズニー・ルネサンスの1作品。

ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは手描き作画アニメーションの技術やノウハウの継承をやめたので、もう二度と大規模な手描き作画アニメーションを制作することはできないだろう。

 

 

演出

Disneyロゴ

ディズニー・アニメーションの実写リメイクでは作品に合わせた Walt Disney Pictures ロゴのバリエーションがあるが、『ライオン・キング』はジョン・ファヴロー監督の前作『ジャングル・ブック』と同じロゴに手を加えたものだった。
ジャングル・ブック』では、「マルチプレーンカメラで撮影した手描きセルアニメーション」を再現していた。VFXスーパーバイザーのロバート・レガートによると、テクニカラーのように赤青緑の3色で別々に撮影して、合成したらしい。
ライオン・キング』では星か花火のアーチが加えられ、現在のロゴの要素がすべて含まれている。
ジャングル・ブック』では眠れる森の美女の城またはシンデレラ城からカメラが下がってジャングルに包まれるが、『ライオン・キング』は通常のロゴと同じようにフェードアウトした。

 

スカーの洞窟

式典に出なかったスカーをムファサがとがめる。原作のアニメーションよりスカーの屈折した心情を描いていた。

 

シンバとスカー

シンバがスカーを煽る煽る。「王様になったら叔父さんに命令する」など。子どもの無自覚な言葉の暴力。

 

ハイエナ

アニメーションのシェンジ、バンザイ、エドから性格などが変更されてシェンジ、アジジ、カマリに。どっちがどっちかはわからないが、アジジとカマリはくっつきたがるキャラと口では嫌そうに言いながら付き合っているキャラのコンビ。

 

プライドランド

スカーが王になって以降のプライドランドの描写が増えた。ハイエナが獲物を狩りつくしたので、草食動物がいなくなり、痩せこけた大地へと変貌した。
サラビがライオンの群れ「プライド」を率いていることが明確に描かれた。
ナラがスカーの支配下から脱出する描写が追加された。このときザズーがナラを止めながらも、スカーやハイエナの注意をひきつけナラの手助けをしている。

 

シンバ生存

ラフィキがシンバの生存を知るきっかけが良い。シンバの毛を鳥が巣作りの材料に運ぶが別の鳥に捨てられ、風に舞った毛が木の枝に付着、キリンが食べて排泄し、フンコロガシが移動中に球が割れて毛が飛び、アリが運んでいる最中にラフィキが見つけて摘み上げた。
サークル・オブ・ライフになっている。

 

 

美女と野獣

ティモンとプンバァが戦うときに "Be Our Guest" を歌いかけて遮られたというパロディ。

 

 

アニメーション

今作を観て、1994年のアニメーションのように動物が動き回らない、表情がない、と感じた人も散見される。
実際は動物たちはちゃんと表情を持ち、感情表現をしている。わかりやすい表現ではないため、気づかなかった人や表情がないと思った人がいたようだ。

VFXスーパーバイザーのロバート・レガートがこのことについて言及している。

We can't do 'squash & stretch' animation, because it has to be realistic. The characters can't have human-esque faces or turn into anything; they are fairly strict as the type of animals they are. So everything has to be converted to, not a cartoon but a live action film; the kind of film you would make if animals could talk and they were actors that you were filming.

「スクウォッシュ&ストレッチ」アニメーションという作画技法で描くわけにはいかない。現実的である必要があるから。キャラクター達は人間のような顔ではないし、あらゆるものに変化するわけでもない。動物の動き、その通りに忠実だ。だからすべてをカートゥーンではなく実写映画に置き換えなければならない。もし動物が話し、また撮影している俳優だったら作っただろうという映画に。

Q&A with Rob Legato - The Lion King | Technicolor

 

'squash & stretch' は、旧ウォルト・ディズニー・プロダクションズに在籍していたアニメーター達「ナイン・オールドメン」がまとめた「アニメーションの12原則」のひとつ。作画において、物をぎゅっと押しつぶす squash と引き延ばす stretch を動きに取り入れることで、豊かな表現を生み出す。この原則は今でも西洋のアニメーション制作の基礎として生きている。
だからディズニーやピクサーなどのアニメーションでは、キャラクター達が顔芸、変顔、ドヤ顔を駆使している。小さな子どもを飽きさせないことにもつながっている。
ただしこれはカートゥーンの動きと認識されているため、実写映画中のVFXでは避けられている。

 

まとめ

フォトリアルなCGIアニメーションなのだが、極めて実写映画の撮影手法を用いていた。基本的にロングショットで撮り、動物の全身を見せる。ここぞという時にクロースアップでキャラクターの表情・感情を見せる。エスタブリッシング・ショットに至ってはキャラクターが豆粒になるくらいまで遠くから風景を見せる。
ライティングにしても極めて実写映画的。映画は「光と影の芸術」と言われる。照明をどう当てるか。「陰影」とひとまとめにした言葉があるが、陰 (shade) と影 (shadow) のそれぞれが語る。
エンドクレジットに Arri (アーノルド&リヒター社) のロゴがあった。パンフレットの解説によると、実写映画用カメラの挙動や特性を計測してメタデータとして取り込み、アニメーションの撮影とカメラワークに活かしたそうだ。ドリートラック、クレーン、ステディカム、ドローンなども。だから、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオやピクサー・アニメーション・スタジオなどの一般的な3DCGアニメーションとは違う印象を受けた。

映画製作の舞台裏やメイキングが好きな人はパンフレット購入をお勧めする。コンセプトアートがたくさん掲載され、制作について解説されている。読み応えのある内容だった。表紙込み60ページで800円。

Dolby Cinema (ドルビーシネマ) でその威力を体感した。
Dolby Vision (ドルビービジョン) のHDRグレーディングが施されている。黒がまさに漆黒。暗い映像がつぶれない。朝焼けや夕焼けが美しい。コントラストが強い、細部まではっきりくっきり見える。
Dolby Atmos (ドルビーアトモス) のオブジェクトベースド音響。天井のスピーカーから音が降り注ぐ。アフリカのサバンナの自然なサウンドデザインだった。

 

 

キャスト

シンバ:ドナルド・グローヴァー賀来賢人
スカー:キウェテル・イジョフォー江口洋介
プンバァ:セス・ローゲン佐藤二朗
ティモン:ビリー・アイクナー;亜生(ミキ)
ナラ:ビヨンセ;門山葉子
シンバ(子供時代):JD・マクラリー;熊谷俊輝
ナラ(子供時代):シャハディー・ライト・ジョゼフ;小林星蘭
ザズー:ジョン・オリヴァー;根本泰彦
サラビ:アルフレ・ウッダード;駒塚由衣
ラフィキ:ジョン・カニ;駒谷昌男
シェンジ:フローレンス・カサンバ;沢城みゆき
カマリ:キーガン=マイケル・キー加瀬康之
アジジ:エリック・アンドレ;白熊寬嗣
ムファサ:ジェームズ・アール・ジョーンズ大和田伸也
ハイエナ:J・リー;村治学
サラフィナ:ペニー・ジョンソン・ジェラルド;伊沢磨紀
インパラ:フィル・ラマール;落合佑介
ホロホロ鳥:エイミー・セダリス;野一祐子
ガラゴ:チャンス・ザ・ラッパー;越後屋コースケ
ハネジネズミ:ジョッシュ・マクラリー;水間友美
オオミミギツネ:山橋正臣
サークル・オブ・ライフ(歌):菅井美和
コーラス:ベイビー・ブー
コーラス:内田ゆう
コーラス:大木理紗
コーラス:大澤和音
コーラス:柿沼寿枝
コーラス:久保田陽子
コーラス:aYano
コーラス:原田真純
コーラス:山田エンリ
コーラス:安西康高
コーラス:石塚勇
コーラス:石原慎一
コーラス:大滝秀則
コーラス:奥田もとい
コーラス:風雅なおと
コーラス:渕上祥人
コーラス:宮本聡之

 

www.fukikaeru.com

 

演出:向山宏志
音楽演出:市之瀬洋一
字幕翻訳:稲田嵯裕里
吹替翻訳:佐藤恵
日本語歌詞:片桐和子
翻訳監修:ジェームズ・ハバート
日本語版制作:株式会社東北新社

Disney Character Voices International, Inc.

 

 

スタッフ

監督:ジョン・ファヴロー
脚本:ジェフ・ナサンソン
原作:アイリーン・メッキ、ジョナサン・ロバーツ、リンダ・ウールヴァートンによるアニメーション映画『ライオン・キング』脚本
製作:ジョン・ファヴロー、ジェフリー・シルバー、カレン・ギルクライスト
製作総指揮:トム・ペイツマン、ジュリー・テイモア、トーマス・シューマッハ
撮影監督:キャレブ・デシャネル
プロダクションデザイン:ジェームズ・チンランド
美術監督:ヴラド・ビナ、ヘレナ・ホームズ
編集:マーク・リヴォルシー、アダム・ガーステル
アニメーション・スーパーバイザー:アンドリュー・R・ジョーンズ、スティーヴン・エンティコット
視覚効果スーパーバイザー:ロバート・レガート、アダム・ヴァルデス、エリオット・ニューマン
視覚効果&アニメーション制作:MPC(Moving Picture Company)
歌:エルトン・ジョン and ティム・ライス
音楽:ハンス・ジマー
製作会社:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、フェアビュー・エンターテインメント
配給:Walt Disney Studios Motion Pictures
日本での配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

 

 

2019年8月9日 23:00 投稿
2022年12月30日 23:00 加筆修正