山田尚子監督&吉田玲子さんシリーズ構成・脚本『平家物語』が実現
印象
TVアニメ「平家物語」PV 2022年1月よりフジテレビ「+Ultra」ほかにて放送開始&9月15日(水)24時よりFODにて先行独占配信!
山田尚子監督と吉田玲子さんは、『けいおん!』シリーズ、『たまこまーけっと』及び『たまこラブストーリー』、『映画 聲の形』(2016)、『リズと青い鳥』(2018)を制作してきた。
山田尚子さんは何年も前に京都アニメーションを退社して東京で仕事をしているという話があった。ここ数年、名前が表に出てこなかったのはそれも理由の1つ。
古典文学『平家物語』は、故・高畑勲監督が構想していた企画の1つだった。高畑勲監督は、『平家物語』はアニメーションという表現手法をもってしか本質を描けないと考えていた。アニメーターの田辺修さんやプロデューサーの鈴木敏夫さんの考えなど、様々なことがあり、高畑勲監督の『平家物語』は実現しなかった。しかし『かぐや姫の物語』という傑作が生まれた。
今回のテレビアニメは古川日出男さんの訳を底本としている。これは、河出書房新社が出版している『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集』に収められている。池澤夏樹さんが2007年から2011年にかけて編纂した『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』が高く評価されたため、『日本文学全集』も刊行したのだと思う。ラインナップを見ると、よく考えられているなと感心する。
出崎統監督と金春智子さんのシリーズ構成、トムス・エンタテインメント&手塚プロダクション制作による『源氏物語千年紀 Genji』(2009)がある。当初は大和和紀さんの名作漫画『あさきゆめみし』のアニメ化企画だったけれど、紫式部の『源氏物語』を原案としたオリジナルストーリーに企画変更になった。
櫻井孝宏さんが光源氏、小林由美子さんが子ども時代の光る君を演じた。2人とも『平家物語』に出演している。
フジテレビの『ノイタミナ』枠だった。今回の『平家物語』はフジテレビが2018年10月に新設した『+Ultra』枠。フジテレビは2000年代前半に深夜アニメの放送を打ち切りにするなどアニメ業界とファンを裏切った過去があるが、その後の努力で信頼回復した経緯がある。
高野文子さんがキャラクター原案。母が持っている『るきさん』を読んで、好きになった。
キャラクター原案とは、あくまで原案である。イラストレーターや漫画家は、紙という平面上で見栄えがするように描く傾向があり、演出意図に沿って360度どの角度からでも描く必要があるアニメでは、そのままでは使えない。また、イラストや漫画のように一枚絵ではなく、アニメは動きがある。だからアニメーターがアニメ用にデザインする。立体として破綻がないようにデザインする。線を整理する。昔は原作漫画の絵柄と大幅に違うアニメが多かったが、近年では原作者の特徴やキャラクター原案の人の特徴を踏まえたキャラクターデザインが主流。監督やプロデューサーや製作委員会から、原作や原案にもっと近づけて、と注文されることがよくあるそうだ。
さて、そのキャラクターデザインを担当するのが小島崇史さん。幾原邦彦監督、ブレインズ・ベース制作『輪るピングドラム』(2011)にシリーズを通して参加したり、石浜真史監督、A-1 Pictures制作『新世界より』(2012)でキーアニメーターを務めたり。イシグロキョウヘイ監督、A-1 Pictures制作『四月は君の嘘』(2014)では、第5話の絵コンテの石浜真史さんとの共同演出・作画監督・一人原画(第二原画もすべて自分で担当)・動画により素晴らしい画作りをしたり。押山清高監督、Studio 3Hz制作『フリップフラッパーズ』(2016)で初のキャラクターデザインを担当。サイエンスSARUでは、湯浅政明監督の『DEVILMAN crybaby』(2018)第9話で演出・作画監督・サブキャラクターデザイン・一人原画(二原撒きなし)や、『きみと、波にのれたら』(2019)のキャラクターデザイン・作画監督を担当。また、今井一暁監督、シンエイ動画制作『ドラえもん のび太の新恐竜』(2020)でキャラクターデザイン・総作画監督を務めた。
つまり上手い作画さん。
今井翔太郎さんが動画監督。一般的には動画検査と呼ばれているけれど、一部の映画などでは動画監督とクレジットされている。
動画監督をメインスタッフとしてクレジットするということは、それだけ動画を重要視しているから。
視聴者が完成作品で見る絵は、すべて動画さんが描いた線。原画さんが描いた線は、後工程である動画ですべて清書される。そして原画と原画の間の絵を描いて、動きを作り出す(中割り)。
たとえ素晴らしい原画であっても、適当に描かれた動画ならだめな作画になる。「作画が崩れた」「作画崩壊」だの一部の人が騒いでいるが、その原因の1つが動画の質が悪いこと。スケジュールが厳しく、時間がないときは、人海戦術で短時間で上げてくれる海外動仕に頼る。低品質であることも多く、メインスタッフや元請け制作会社のスタッフが時間が許す限り必死で描き直す。納品期日までに間に合わないことも多いので、そういうときはBlu-ray Disc/DVDでリテイクされる。「作画崩壊」と騒ぐ人はBD/DVDを買わない人も多いだろうね。騒ぐのが目的で、間接的に、アニメに携わる人たちを疲弊させていることに無自覚。
海外の下請け会社が悪いのではない。たとえば24時間以内に○○枚描いて、などと発注する、日本の元請け制作会社やグロス請け会社のスケジュール管理の問題。中には製作委員会(特に幹事企業)から無茶苦茶なスケジュールを押し付けられた事例も多数ある。
韓国や中国の下請けがなければ、日本の商業アニメはほぼすべて制作できない。
京都アニメーションは長年提携している韓国のStudio Blueに動画・仕上げ・背景をずっと頼んでいる。元請け制作を始めたばかりの頃は原画も前身企業Ani Villageが担当していた。
ufotableも外国の下請けを使っている。『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』では、海外動仕のF.A.Iインターナショナルや、背景でStudio Blueなどがクレジットされている。テレビアニメ第1期『鬼滅の刃 竈門炭治郎 立志編』では、海外の下請け会社が数えきれないほどクレジットされている。
外国の下請けに頼るのは、予算の問題ではなくスケジュールの問題。毎週30分アニメを放送するためには国内スタッフだけでは不可能。1話数で動画4000枚から5000枚、作品によっては1万枚にもなる。
たとえばP.A.WORKSは1年目の動画マンの目標として1か月350枚を掲げた。上達すれば1か月500枚も可能になる。月500枚を3か月達成すれば原画に昇格するための試験が受けられる。他社も似たような感じだろう。
現在のアニメでは、たくさんの細かい線で成り立っているキャラクターデザインが一般的。だから原画1カット、動画1枚を描くのに時間がかかる。
少しでも設定画から外れていれば、「作画崩壊」と叩く人が大勢いる。
それどころか絵柄(キャラクターデザイン)の好みを「作画が悪い」と主張する無知な人もいる。
橋本賢さんが色彩設計。今敏監督の作品の色彩設計を担っていた。マッドハウス制作『パーフェクトブルー』(1997)、『千年女優』(2002)、『東京ゴッドファーザーズ』(2003)、『妄想代理人』(2004)、『パプリカ』(2006)。浅香守生監督とは、『ちはやふる』シリーズや『カードキャプターさくら クリアカード編』(2018)。他には、荒木哲郎監督、WIT STUDIO制作『進撃の巨人』シリーズ、松見真一監督、オレンジ制作『BEASTARS』シリーズなど。
PVを観ると、背景美術に合わせた、彩度を抑えた色彩設計と色指定がいい。
久保友孝さんが美術監督。
現在のアニメではAdobe Photoshopなどで描く背景美術が主流だけど、「でほぎゃらりー」は今でも画用紙に筆と絵の具で描いている背景美術会社の1つ。スタジオジブリ制作部門解散後、美術スタッフが離散してしまい技術が失われてしまうことを危惧した、スタジオポノック創業者の西村義明さん、庵野秀明監督、川上量生さんが出資して設立した。
米林宏昌監督、スタジオポノック制作『メアリと魔女と花』(2017)、今石洋之監督、TRIGGER制作『プロメア』(2019)の美術監督を務めた。
庵野秀明監督は、若いのに大したものだ、経験を積んでもっと見せ方が上手くなるだろう、楽しみだ、と評している。
PVで観られる背景美術もいい。
出水田和人さんが撮影監督。迫井政行監督、Studio 3Hz制作『天体のメソッド』(2014)、小島崇史さんがキャラクターデザイン・総作画監督を担当した押山清高監督、Studio 3Hz制作『フリップフラッパーズ』(2016)など。
安藤真裕監督とは、キネマシトラス&オレンジ制作『Under the Dog』(2016)、上田程之さんと共同でP.A.WORKS制作『天狼 Sirius the Jaeger』(2018)で撮影監督を務めている。
また近年の代表作は、古川知宏監督、小出卓史副監督、キネマシトラス制作『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』シリーズがある。
撮影は彩色した動画、背景、2DCG、3DCGの各素材を合成して映像にする仕事。同時に、Adobe After Effectsを使った現在の撮影は、ビジュアルエフェクトをかけてお化粧する。撮影は各工程のしわ寄せを最も受けやすく、納品までの時間がないなかで作業することが多い。それまでの各工程で時間に余裕をもって素材を撮影に渡せれば、撮影監督と撮影さんがいい映像にしてくれる。
廣瀬清志さんが編集。津田尚克監督、david production制作『妖狐×僕SS <いぬぼくシークレットサービス>』(2012)、渡辺歩監督、河野亜矢子助監督『恋は雨上がりのように』(2018)、鈴木健一監督(第1期)、小倉宏文監督(第2期)、david production制作『はたらく細胞』など。
監督と各話演出家と編集者で、心地よい時間の流れを作る。カットのつながり、台詞の間や動きのタイミングなどを微調整する。
木村絵理子さんが音響監督。映画の吹き替え演出もアニメもしている人。
クリス・コロンバス監督(第1作第2作)、アルフォンソ・キュアロン監督(第3作)、マイク・ニューウェル監督(第4作)、デヴィッド・イェーツ監督(第5作以降)『ハリー・ポッター』シリーズと『ファンタスティック・ビースト』シリーズの吹き替えを演出したのも木村絵理子さん。
倉橋裕宗さんが音響効果。京極尚彦監督、サンライズ制作『ラブライブ!スーパースター!!』(2021)の音響効果。
京都アニメーション制作の、武本康弘監督(第1期。第2期はシリーズ監督。)、石原立也監督(第2期)『小林さんちのメイドラゴン』シリーズ、石立太一監督、藤田春香監督(外伝映画)『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズなど。
効果音(SE)を作り出す人。普段はあまり意識することはないけれど、なくてはならない縁の下の力持ちの仕事。
牛尾憲輔さんが劇伴を作曲。山田尚子監督の『映画 聲の形』(2016)、『リズと青い鳥』(2018)で音楽を担当した。
サイエンスSARUは、湯浅政明監督とアニメーター・アニメーション演出家・プロデューサーのチェ・ウニョンさんが設立した制作会社。
湯浅政明監督、野木亜紀子さん脚本の映画『犬王』(2022)を制作している。同じく古川日出男さんの『平家物語 犬王の巻』が原作。
NHKの大河ドラマのように、監修してくれる専門家たちがいる。
佐多芳彦さんが歴史監修。立正大学 文学部史学科 文学研究科史学専攻 教授。
後藤幸浩さんが琵琶監修。薩摩琵琶演奏家。
期待している。
キャスト
びわ:悠木碧
平重盛:櫻井孝宏
平徳子:早見沙織
平清盛:玄田哲章
千葉繁
井上喜久子
入野自由
小林由美子
岡本信彦
花江夏樹
村瀬歩
西山宏太朗
檜山修之
木村昴
宮崎遊
水瀬いのり
杉田智和
梶裕貴
スタッフ
原作:古川日出男訳 『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09 平家物語』河出書房新社刊
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクター原案:高野文子
キャラクターデザイン:小島崇史
動画監督:今井翔太郎
色彩設計:橋本賢
美術監督:久保友孝(でほぎゃらりー)
撮影監督:出水田和人
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音響効果:倉橋裕宗(Otonarium)
音楽:牛尾憲輔
歴史監修:佐多芳彦
琵琶監修:後藤幸浩
アニメーション制作:サイエンスSARU