『平家物語』第十話「壇ノ浦」
作品について
山田尚子監督とシリーズ構成・脚本の吉田玲子さんの新作。
メインスタッフについては別の記事に書いた。
山代風我さんが絵コンテ・演出。湯浅政明監督『映像研には手を出すな!』(2020)で本橋茉里さんと副監督を務めていた。
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/27902.html
長友孝和さんと神戸秀太さんが演出補佐。
配信
FODで先行独占配信中。
https://fod.fujitv.co.jp/title/5h19/5h19110010
FODは10月27日にサイトをリニューアルしたので、作品ページのURLも変更された。
感想
先日Togetterで読んだ。私も「市中引き回しの刑」を、馬に引っ張られて地面を引きずられる刑罰だとイメージしていた。子どものときに観た西部劇などの映画やアメリカドラマの影響かな?
静御前は義経を見てちょっと失敗。月とあかりはそんな静を見て微笑む。
義経も静御前に見とれている。義経の顔が映り込んだお猪口に桜の花びらが落ちる。
遊びをせんとや生れけむ 戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば 我が身さえこそ動(ゆる)がるれ
NHK大河ドラマ『平清盛』(2012)では、吉松隆さん作曲の「平清盛テーマ曲」で引用されていた。「遊びをせんとや生れけむ」のメロディーを作るにあたって、VOCALOID初音ミクを用いたそうだ。
最終的に実際のテーマ曲の歌唱は松浦愛弓さんが担当した。亀井幹太監督、岸本卓シリーズ構成・脚本、宇仁田ゆみ原作、Production I.G制作『うさぎドロップ』(2011)の加賀りんを演じた。そしてなんと、この『平家物語』では静御前と月の親友あかりを演じている!
演出
後白河法皇は悪代官のような笑みを浮かべるが、孫である後鳥羽天皇にじゃれつかれると爺ばか・好々爺になる。
貝合わせ。平安時代の遊び。
床に身を投げ出した維盛の指に蝶が止まる。資盛が、このままではまた戦になると言うと、蝶がカメラの前を横切る。蝶が平家から去る、平家の滅亡を暗示している。
維盛を上空から見下ろしたカットでは、影が維盛を真っ二つに引き裂いている。維盛の死を暗示している。
維盛の流した涙が、血液となり地面に落ちる。血痕。石井俊匡監督『86-エイティシックス-』(2021)でも同じ演出を用いていた。第7話は伊藤智彦監督が絵コンテ・演出。
崖下から維盛を見上げるカット。維盛のセル(レイヤー)を拡大しボカし、崖下の背景を奥に引っ張って、維盛のめまいを表現する演出。興味深い演出処理(作画・彩色・背景美術・撮影の各工程に演出意図を伝えて、演出意図を実現する作業)だね。
清経が命を絶った話を聞いて目をそむけた資盛が瞬時に覚悟を決めたことを、目を閉じて開くお芝居とカメラワークで表現。
維盛の、力が抜けている手のクロースアップ。
葉が落ち、複雑に絡まりあった木の枝の隙間から見える、小さな満月。
頼朝の前に座らされている重衡。2人の間には大きな距離があり、カメラがpanする。重衡とカメラの間には木製の柵が置かれていて、重衡が囚われの身であることを強調している。
明かりの火が風にあおられ大きくなったのを使い、焼き討ちについての過去回想へ場面転換。
政子が注いたお酒に、政子の顔が映り込む。鏡や水面に映る姿は本心を表す。
平家の者を助ければ源氏が攻撃されるかもと言う政子の話を聞く頼朝を、お酒に反射した顔で見せる。そのお酒を一気に飲み干す。覚悟を決めたという演出。
徳子と資盛の会話の最中に徳子は移動する。安徳天皇に聞かれないようにするために。御簾に隠れる位置に徳子は移動した。
維盛と僧侶が話しているシーンはずっと障子を背景に描いているが、「その苦しみたるや」という言葉に合わせてたくさんの仏像(菩薩像)を見せる。
出家した維盛を、ようやく明るい背景美術とともに描く。
逆光で維盛に光背が差している。
入水する直前、数珠を持った維盛の手が震えている。
維盛の入水を、川の水に反射したびわの左目を通して視聴者に見せる。
流れ落ちる滝に逆らうように上にtiltして、太陽にカメラを向ける。維盛の魂が天に昇るメタファー。
寿永3年3月28日(1184年5月10日?)。
資盛は蝶を見て維盛を思い浮かべる。
第7話でびわを平家の争いに巻き込まないために「出ていけ」と言ったのに、「何で戻ってきたんだよ」とまた会えて嬉しいという感情が混ざっている資盛。
「びわのことをずっと心配してくれておった。母というものはそうなのだな」
母であり、子を守っている徳子に伝える。
膝からのぞかせるびわの表情がとても穏やかで慈愛に満ちている。
屋島の戦い。那須与一が扇の的を見事射抜いたと『平家物語』で語られている。元暦2年/寿永4年 2月19日(1185年3月22日)。
池に落ちたたくさんの桜の花びらは、大勢の人の命が散ったことを表すメタファー。
腹を決めた頼朝は椿の花を切り落とす。平家を根絶やしにするという強い意思。平家から三種の神器を返還してもらうことを望んでいる後白河法皇とはもう違う立場になった。
山代風我さん凄い。
余談
撮影監督補佐の富田喜允さんは、本間修監督、P.A.WORKS制作『パリピ孔明』(2022)の撮影監督を務める。11月17日に発表された。
篠原俊哉監督、P.A.WORKS制作『色づく世界の明日から』(2018)は並木智さんと共同で撮影監督を務めていたから、初めて1人での撮影監督かな。
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/25385.html
アニメ制作における撮影とは、色を塗った動画・背景・2DCG/3DCGなどの素材を映像にまとめ、カメラワークをつけ、フィルターやエフェクトをかけてお化粧する仕事。「作画がいい」と言われている作品や制作会社は、実はこの撮影が優れているからということも多い。
山田尚子監督が働いていた京都アニメーションも、撮影が優れている制作会社の1つ。
P.A.WORKSは撮影部を持たないけれど、ずっとT2 studioのスタッフが撮影を担当しているので、P.A.WORKS作品は撮影が優れている。
わかりやすい例だと、この第10話Aパート、廊下の向こうから男性が走ってくるカットはカメラのフォーカスは意図的にずっと合わせておらず、カメラの前に来た瞬間に男性だけはっきりくっきり見える。これも撮影で行っている演出(絵コンテにフォーカスについて指示が書かれていることが多い)。
再会したびわと維盛に、川で乱反射した太陽光のきらきらをかけている。
キャスト
びわ:悠木碧
平重盛:櫻井孝宏
平徳子:早見沙織
平維盛:入野自由
平資盛:岡本信彦
平清経:花江夏樹
平敦盛:村瀬歩
平清盛:玄田哲章
平時子:井上喜久子
平宗盛:檜山修之
平知盛:木村昴
平重衡:宮崎遊
後白河法皇:千葉繁
平滋子:坂本真綾
高倉天皇:西山宏太朗
平資盛(幼少期):小林由美子
平経子:本名陽子
以仁王:藤原大智
安徳天皇:佐藤美由希
源義経:梶裕貴
弁慶:大塚明夫
熊谷直実:田中美央
静御前:水瀬いのり
月:小橋里美
あかり:松浦愛弓
浅葱の方:大原さやか
平時忠:青山穣
びわの父:杉村憲司
祇王:井上喜久子
建礼門院右京大夫(伊子):本泉莉奈
藤原西光:土師孝也
俊寛:土田大
藤原成親:森宮隆
明雲:ボルケーノ太田
土肥実平:木下浩之
文覚:佐々木睦
藤原忠清:楠大典
斎藤実盛:斎藤志郎
瀬尾兼康(妹尾兼康):井川秀栄
源頼朝:杉田智和
北条政子:甲斐田裕子
源義仲(木曽義仲):三宅健太
中原兼遠:多田野曜平
今井兼平:落合弘治
巴御前:鷄冠井美智子
平高清:和多田美咲
夜叉御前:木野日菜
平忠度:中村和正
平行盛:真木駿一
妓女:大地葉
緒方:高橋研二
後白河の侍従:高橋大輔
後鳥羽天皇:木野日菜
女御:野口瑠璃子
新大納言局:陶山恵実里
滝口入道:田村真
後白河の侍従:白石兼斗
武里(たけさと):新祐樹
斉藤五:観世智顕
平家の兵:中尾智
第10話スタッフ
脚本:吉田玲子
絵コンテ・演出:山代風我
演出補佐:長友孝和、神戸秀太
総作画監督:小島崇史
作画監督:村越麻海、迎千葉瑠、北田久登、塚本あかね、那須野文
作画監督補佐:江﨑好絵、太田琴美、うなばら海里
プロップデザイン:寺尾憲治
原画:
うなばら海里 塚本あかね
朴花緒 北口夕
伊奈透光 宮元彩花
北田久登 三宮昌太
みふみ 米田紘
迎千葉瑠 金子俊太郎
上原結花子 オグロアキラ(小黒晃)
村越麻海 吉岡春野
内田大晟 坂田駿
モコちゃん
第二原画:
吉村朝陽 埼玉憲人
西垣庄子 杉薗朗子
九重亜夜 鈴木優介
関根柚月 尾沢あとり
江﨑好絵 太田琴美
Hakobera
有限会社ゼクシズ
佐藤菜穂
Studio BUS
動画監督:今井翔太郎
動画検査:平野ゆい
動画:
CygamesPictures
吉田泰斗 チンシトウ
泉美咲 清水政宗
蔡尚東 桂乾浩
川南佑華
ST.BLUE
李恩姬 金映珠
張昭映 崔ボラム
李泫周
Studio BUS
ミン・ギョンエ イム・ジヒ
パク・ギョンスク ミン・スイン
ソン・ソンミ ソ・チェヨン
ジャン・ユンヨン
IRIS MEDIA
色彩設計補佐:中村絢郁
色指定・検査:吉村智恵
仕上げ:
株式会社旭プロダクション 白石スタジオ
ST.BLUE
韓善鍾 宋銀河
金美蘭 金正恩
Studio BUS
ナ・ジョンア イ・ジウン
イ・ビョンエ キム・ジョンヘ
キム・テヒ キム・ウンギョン
IRIS MEDIA
美術制作:でほぎゃらりー
背景:
大城空 金山詩織
眞崎萌 森あかね
笠井美枝 串田達也
中村聡子 福留嘉一
鮫島潔 島田碧
本田敏恵 大森崇
美術設定:久保友孝
美術進行・設定制作:河田瞳
美術制作管理:小林毅
撮影監督補佐:富田喜允
撮影:佐々木景子 染谷和正
線撮:GKセールス
編集助手:榎田美咲
編集スタジオ:エディッツ
オンライン編集:
IMAGICA EMS
永芳信裕
塚根結衣
ラボマネージャー:畑和来
制作進行:高澤諒太
オープニングアニメーション
絵コンテ・演出:山田尚子
作画監督:小島崇史
作画:
小島崇史 山口明子
うなばら海里 木曽勇太
古川良太 ちな
もああん Maring Song
第二原画:
秋竹斉一 江﨑好絵
ZEXCS
佐藤菜穂
動画検査:今井翔太郎
動画:
小島崇史 今井翔太郎
ST.BLUE
色指定検査:今野成美
仕上げ:
MADBOX ST.BLUE
GKセールス
背景:久保友孝 大森崇
撮影:
出水田和人 佐々木景子
染谷和正
オープニング制作:進藤嵩平
エンディングアニメーション
絵コンテ・演出:山田尚子
原画:小島崇史
動画検査:今井翔太郎
動画:
小島崇史 杉薗朗子
ST.BLUE
色指定検査:今野成美
仕上げ:ST.BLUE GKセールス
背景:久保友孝
3D背景・コンポジット:テラエフェクト
撮影:出水田和人
エンディング制作:進藤嵩平
メインスタッフ
原作:古川日出男訳『平家物語』(河出書房新社刊)
監督:山田尚子
シリーズ構成・脚本:吉田玲子
キャラクター原案:高野文子
キャラクターデザイン・総作画監督:小島崇史
動画監督:今井翔太郎
色彩設計:橋本賢
美術監督:久保友孝
美術設定:久保友孝、片山久瑠実
撮影監督:出水田和人
撮影監督補佐:富田喜允
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音響効果:倉橋裕宗
録音調整:太田泰明
録音助手:小泉まい
音響制作担当:丹下雄二
選曲:reflexion
音楽:牛尾憲輔
音楽プロデューサー:中村伸一
音楽制作協力:安場晴生
音楽制作:ポニーキャニオン
歴史監修:佐多芳彦
琵琶監修:後藤幸浩
製作:遊佐和彦、桑田靖、高揚帆、菊池貞和、チェ・ウニョン、東山敦、小川泰
統括:高瀬透子
プロデューサー:竹内文恵、有田真代、尾崎紀子、中村伸一、チェ・ウニョン
アシスタントプロデューサー:菅原花、板垣茜
アニメーションプロデューサー:崎田康平
制作デスク:番匠彩子
制作デスク補佐:神戸秀太
設定制作:進藤嵩平
アニメーション制作:サイエンスSARU
制作:「平家物語」製作委員会(アスミック・エース、フジテレビジョン、bilibili、ポニーキャニオン、サイエンスSARU、電通、BSフジ)